その人の口元を見れば、その人の自己管理能力が分かります。喫煙している人の歯はヤニ色に染まっていますし、歯周病の人は歯肉が黒ずんでいます。
最近、歯周病が糖尿病や心筋梗塞と関係があり、また、産科領域では早産の原因の一つになることも分かってきました。私が産婦人科に入局したとき、ある先輩の先生が「佐野、こんな論文があるぞ」と産婦人科の医学雑誌を見せてくれました。その論文とは、虫歯を放置していたため敗血症になって死亡した2人の妊婦さんの症例報告でした。それ以来、「歯科を受診しても大丈夫ですか?」と訊く妊婦さんには必ず受診するようにとすすめてきました。今では、いちいち紹介状を書くと時間も費用もかかるので、歯科医の先生が困らないように、妊婦さんでも使用できるような抗菌薬や鎮痛薬などを書いた1枚のちらしをお渡ししています。
なかにはいろいろと理由をつけて歯科を受診しないで、「とにかくこの痛みを何とかしてください」という妊婦さんもいます。幸か不幸か歯痛に対しては、鍼治療がとても良く効くので、私も「今度こそ受診してね」と言いながら当座の治療をしてしまうことがたびたびあります。また、立効散といって歯痛専門の漢方薬もあります。それをズルズルと産後まで処方したこともありました。われながら押しの弱い医者だと反省しています。
歯は、食物を体に取り入れる玄関口です。また、ナイフやフォークなどの食器のなかで最も大切なものともいえます。これを大事にしなくて健康管理をしているとはいえません。20年以上も前でしょうか、朝日新聞の健康欄で「歯無しにならない話」というコラムが連載されていたことがありました。歯のケアについてくわしく解説してありました。以来、いろいろな歯医者さんを受診しましたが、ここまで歯周病の予防を指導してくれる先生はいませんでした。
12年前に当院の東向に「かわむら歯科クリニック」が開設されました。川村先生は歯周病がご専門で、私が期待していた以上の指導をしてくださいました。当初、私はすでに歯周病になりかけていて、歯周ポケットが3mmになっている歯もありました。川村先生と歯科衛生士さんの指導は実にていねいでした。デンタルフロス、歯間ブラシ、奥歯専用ブラシを使用した後、一本一本の歯を20分ほどかけて毎日ブラッシングしました。それでも3か月後の定期健診では磨き残しを指摘されました。しかし、歯周病は徐々に改善され定期健診は6か月おきでよくなりました。
最近では、歯周ポケットのチェックも必要なくなったようで、「あと20年くらい大丈夫ですか」と訊いたところ、「5,60年でも大丈夫ですよ」と太鼓判をおされました。しかし、5,60年というと私はとっくに100歳を過ぎています。とにかく「歯無し」にならなくてすみそうです。
歯磨きは毎食後にする必要はなく、1日1回、完全にブラッシングをすればいいそうです。口元のきれいな女性はすてきです。皆さんも歯の自己管理をして健康な生活を送ってください。
第15回 忙酔敬語 歯の健康