健康診断にもいろいろありますが、私が大切にしているのは歯の検診です。10年ほど前、家族の強いすすめで大腸がんの検診を受けたとき大腸ポリープが見つかり、担当の先生に「良性だと思いますけど念のため今取りましょうか?」と訊かれ、即座に「ハイ!」と答えたのに、横にいた看護師さんが「先生、一泊入院してもらわないとイケナイ規則になっていますよ」とよけいなことを言ったので、そのままになって現在にいたっています。
検査してくれた先生は消化器系の名医として知られていたのでお願いしたのですが、その病院は白石にあり、とにかく遠い。めんどくさいので以来、そのままにしています。家族はときどきしつこく検診を受けるようにすすめます。検査自体はどうってことはなく、むしろ腸内を空っぽにする全処置で大量の下剤を飲んで、15分ごとにトイレに行き、だんだん便が澄み切っていくのが面白くはありました。ただ、大腸がんで治療した父や高名な先生たちを思い浮かべると、体をいじくられるのは嫌だなあ、それよりも放っておいて自然死する方が面白そうだなあ、と医師にもあるまじきことを考えています。医療界の異端児、近藤誠先生が『健康診断は受けてはいけない』(文春新書)の中で、「大腸ポリープは取ってはいけない」と書いているので、理論武装のために購入しましたが、誰も相手にしてくれません。
歯は大腸とくらべると一見ちっぽけで過小評価されがちですが、食物を体に取り入れる第一関門で、これがやられると万病のもとになります。大腸がんをはじめあらゆる消化器病、糖尿病、その他のメタボ等々。歯周病も含めた炎症が早産をもたらすことがあります。
妊娠9ヵ月で切迫早産のため入院した妊婦さんがいました。入院時の検査で炎症反応が高いので、「虫歯はありませんか?」と確認したところ、実はそうなんです、ということ。この妊婦さん、前の妊娠でも早産となり、そこの産科の先生に「次の妊娠までに虫歯の治療をしてください」と言われたそうです。しかし、治療しないまま今回の入院となりました。妊娠初期でも歯の治療はできますが、早産防止の点滴をしている状態ではどうしようもなく、結局、当院で管理不能となり高次施設へ転院となりました。
私は妊婦さんを含めて患者さんを診るとき、口元に注意する癖があります。歯が抜けていたり歯茎が黒ずんでいたりすると、自己管理がなっていないな、と要注意人物となります。その癖は一般の人にも向けられ、歯周病のありそうな人は大丈夫かな?と心配になります。
さて、お前はどうか? 大腸よりも大事にしている歯ですから、おろそかにするわけがありません。食後は歯間ブラシとデンタルフロスを使い、さらに奥歯用の歯ブラシでデンタルフロスが届かない部分を軽く掃除します。要するに楊子でシーハーの発展版です。本格的な歯ブラシは寝る前に一本ずつ10分くらいかけて丁寧にやさしく磨きます。私の歯は体質的に黒ずみやすく、そんなに努力してもチョコレート色になります。そこで歯科の川村先生がすすめてくれたのが、「ルシェロ歯みがきペーストホワイト」。基本的に歯磨き粉は使いすぎると歯のエナメル質を研磨してしまうので加減して磨かなければなりません。そんな努力の結果、川村先生は、「すばらしいです、また半年後に検診します」と言ってくれました。川村先生によると私の歯は、あと50年は使い物になるとのこと。その頃は私はとっくに死んでいるばず。残った歯を想像するとちょっと不気味に思いました。
第355回 忙酔敬語 歯科の先生に褒められた