佐野理事長ブログ カーブ

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第348回 忙酔敬語 痛みと心 

「この痛み、やっぱり気持ちの問題なんでしょうか?」
なかなか治らない下腹部や腰、ときには肩まで痛くなるという気の毒な患者さんが疲れ切った顔で言いました。あちこちの内科や整形科を受診しても「異常はありません」の一言でかたづけられてきました。
「心だろうが体だろうが、痛いものは痛いんです。そこを何とかするのが私の役目です」
何だか偉そうなことを言ってしまいましたが、これには理由があります。
昨年の良導絡自律神経学会で、横浜市立大学付属病院で難治性慢性疼痛の治療にたずさわっている北原雅樹先生の講演を聴きました。
「疼痛を身体性と心因性に分けて治療している日本はアメリカより30年遅れています」
心身医学や東洋医学で「心身一如」を学んできた私にはすぐピンときました。そこであえて質問しました。
「東洋医学では心身一如が常識で、我々はそんなに遅れているとは思いませんけど」
「それは先生方のように東洋医学を実践している場合で、日本の一般的な医療に関して申し上げているのです」
まったくその通りです。「心身一如」と偉そうに言いましたが、「心身一如」を説明する図として、東洋医学でも心身医学でも「心」を大きく丸で囲んだ部分と「身体」を大きく丸を描き、「心」と「身体」が重複した部分で表現してきました。
北原先生に言わせると、そんなのもナンセンスで、「心」がやられていれば「身体」にも影響が現れるし、その逆もある、「心身一如」の図はくり返すようですがやはりアメリカよりも30年どころか40年以上遅れているようでした。要するに「心」と「身体」はすべて重複しているのです。
私の質問は愚問でしたが、やっぱり質問して良かった、学会に参加するということはこういったやり取りに意義があるのです。目から鱗でした。
北原先生は慢性疼痛で苦しんでいる患者さんが受診するとじっくりとお話しを訊き、心理療法、鍼治療など多彩な治療を実践しています。
さて、はじめの患者さんについてもどります。
「指をちょん切られたら指が痛いだけですまないでしょ? 当然、パニックになりますよね。心も体も両方いっぺんに診なければならないんです。何とかしましょう」
自分でも、たいそうな事を言ってしまったな、と思いましたが、患者さんの表情は和らぎました。
医師になりたてのころ、ガン患者さんの疼痛をまかされた経験のある私は、疼痛を訴える患者さんには何でもしてあげようと特に気合いを入れて診療しています。
北原先生のように鍼も打つし、場合によっては心理士にカウンセリングのオーダーを出すこともあります。本当は私自身が行うべきなのですが、外来では何十人も患者さんが待っているので充分な時間が取れないからです。
薬物療法としてはトラマールとかトラムセットなどがん性疼痛にも使用される薬も積極的に処方しています。リクツはともかく痛みからの解放が大事。それでもダメなら懇意にしているペインクリニックの医師に紹介しています。