医者の一番言ってはイケナイ言葉です。
患者さんだってまさかここまでひどいとは思ってもいないわけで、やっとの思いで病院に来たのです。そこへこんな言葉。ガックリ来るのは当たり前です。癒やされるために来たのにさらに奈落の底に突き落とされ、トドメまで刺されるのです。これじゃ、受診しなければ良かった、と思うのも当然です。
「こんなになるまでよく辛抱されましたね」
のひとことくらい言えないものかね・・・。これがプロの言葉です。
早く受診したから助かるってものではありません。ある自治体で健康診断をしても癌の早期発見を見逃してしまったケースがあり問題になったことがありました。医療界の異端児、近藤誠先生の言うことも一理あります。
婦人科の子宮頸部がん検診はほとんどは有用です。これに頸がんウィルスの検査も加えれば5年に1度でも早期発見が可能です。この辺だと近藤先生はおとくいの「ガンもどき」と言うかもしれません。確かに悪性腺腫という特殊な癌だと、早期発見して手術をしても、あれよあれよという間に転移して放射線科のお世話になっても気の毒な結末になり、現在の課題の一つです。
「どうして早く来なかった!」と言うヒステリックな医師の言葉には逃げの姿勢がかいま見られます。あまり医者向きの人間ではありません。手遅れでもそれに応じた対応があります。簡単に見捨てないで、高次医療機関を紹介するなり落ち着いて毅然として患者さんに向き合うべきです。
幕末の日本の医学に大きな影響をあたえたドイツ人医師フーフェラントは、けっして患者が不安になるような言葉は使いませんでした。もちろん癌の告知もしませんでした。したとしても希望を捨てない言い方をしました。現在、医療現場では「説明と同意」が一人歩きをして患者さんがどうしていいのか分からず途方にくれることも少なくありません。演劇にたとえれば患者さんが主人公なのは当然ですが、病気に関しては素人なので、医師がしっかりと責任を持ってプロデュースするなり演出するなりしなければなりません。病状によってはハッピーエンドとはいかないかもしれませんが、主人公が納得するように演出すべきです。「早く来なかった」患者さんに対してもしてあげられることはたくさんあります。医師が演出を放棄してはいけません。
なんて偉そうなことを書いてきましたが、フーフェラントのことを紹介してくれたのは藤女子大学の藤井義博先生です。藤井先生は長年、ターミナルケアや緩和ケアの研究にたずさわってきました。日本で癌の告知が普及していなく、主人公の患者さんが宙ぶらりんになっているころ、あえて、昔のアメリカでは癌の告知はほとんどされることはなかったと講演されたことがありました。アメリカで癌の告知をするようになったのは、病名を知らなかった患者さんから訴えられ事例も少なからず関与しています。要するにヒューマニズムだけではなかったのです。この講演を聴いてから藤井先生の言動に注目するようになりました。今年の9月29日(土)・30日(日)に藤女子大学で日本スピリチュアル学会学術大会が開催されます。大会長はもちろん藤井先生。当院の郷久理事長も顧問で、講演する予定です。一般参加もOKですので、興味ある方は是非いらしてください。
第343回 忙酔敬語 どうして早く来なかった!