アフリカで誕生した現人類の一部はその後アフリカを出て世界各地に広がりました。はじめは黒い肌をしていましたが、ヨーロッパへ行った人たちはメラニン色素の必要がなくなったことと、色白、金髪、青い目のネアンデルタール人と混血をした結果、白人となり、その他、それぞれの地域に適応して発展しました。ネアンデルタール人が金髪だった!?
これは5月13日のNHKスペシャル『人類誕生』シリーズ第2で知ったこと。総合大学院大学学長の人類学者、長谷川眞理子先生も登場され、終始ニコニコされていて、しっかりと監修していた様子でした。ですから信じられる話です。
人類は、かように適応性があり世界中に広まりましたが、広まった背景にはその土地に住めなくなった理由もあるはずです。自然や食料問題、部族関係、あるいは人間関係などが破綻してアフリカを出ざるをえなかったのかもしれません。まあ、今で言えば負け組でしょうか。ほとんどは新天地にたどり着く前にくたばったと考えるのが妥当ですが、なかには新天地が故郷のアフリカよりも人類の繁栄に適していて大文明を築いたところもありました。そこでも失敗した連中はさらに旅を続けて、ベーリング海峡(当時は陸続き)を渡り、その辺でとどまってイヌイットの祖先となった連中もいましたが、とうとう南米までたどり着きました。その間、数万年。ご苦労なことでした。
かように自分の居場所を見つけるというのは困難なことです。
現代社会で生きづらい思いをしている人のほとんどは、本来その人が住むのにはふさわしくない環境に囲まれているからではないかと考えられます。
不登校、職場での不適応、ハイテクの世界、寒すぎる環境、不適切な食事、ご近所の問題、家族関係、‥‥‥‥。
なかなか病状が改善しない患者さんを診ていると、病気の背景には人間関係も含めて適した環境に住んでいないんだなあ、とつくづく気の毒になります。
不登校に関しては、そもそも学校がその子にふさわしい居場所ではないので原則として無理して行かなくても結構、という考えが受け入れつつあります。精神科のカリスマ神田橋條治先生は、もし行くのなら大きな段ボールを持たせてやればよい、段ボール箱の中にいれば授業が終わるまで耐えることが出来る、と述べられていました。ここまでして学校へ行かせなくてもよさそうなものですが、神田橋先生お得意のジョークかもしれません。
私は、さいわいにして住めば都という脳天気な人間で、幼稚園のときから転校を経験して、当院に来るまで同じ土地に5年以上住んだことはありませんが、その土地その土地の思い出があり、つらかった記憶はほとんどありません。当院のスタッフの中には幼い頃から屯田暮らしという助産師もいます。よくもまあ、飽きもしないでやってこれたものだと感心しました。オレだったら5年以上も同じ所に居たら尻がムズムズしたろうになあ。
さて、本人にとっての居場所の問題。ご先祖様がやったように、いざとなれば思い切ってどこかに居場所を変えるという手があります。ようするにとっとと逃げる。摂食障害の若者500人を治療した医師は著書の中で、「これは私見ですが、本来、健康な心を持った子だったら、摂食障害になる前に家出をすると思います」と述べていました。
私は無責任にも、逃げるんだったら暖かい奄美大島か八丈島がおすすめです、と言っていますが、患者さん達は、そうできればいいんですけど、と寂しそうに笑っています。
第332回 忙酔敬語 自分の居場所