このタイトル、週間『日本医事新報』の2014年1月特集号、新見正則著『【実践】ちょいたし漢方』のパクリです。新見先生は西洋医学に漢方を「ちょいたし」する立場で書かれていますが、私は既存のエキス剤に生薬を「ちょい足し」することにはまっています。 よく知られている「ちょい足し」としてはコウジン末や加工ブシ末があります。
コウジンは朝鮮人参を皮ごと蒸して乾燥させたものです。ソウルに旅行したとき、いたるところに朝鮮人参が束になって売っていましたが、あれはクズ人参なんだそうで高級品はほとんど日本に輸出されるとのこと。確かに空港の免税店で正官床紅参がりっぱなガラスケースに入れられていました。既存のエキス剤に「ちょい足し」すれば保健が効くのでそれほどベラボーな値段はしません。食欲が増して元気が出ます。
加工ブシ末の原料は猛毒のトリカブトです。ブシは代謝を高めて体を温めるほか鎮痛作用もありますが、加工ブシ末は厳重に処理して毒を除いたため温める作用だけが残り鎮痛作用は毒とともにほとんど消えてしまいました。昔の漢方医によると少ししびれるくらいがよく効くんだそうですが現在出回っているブシ末は毒がすっかり無くなり腑抜けです。しかし、温める作用は抜群で、単独で処方しても保健が効きます。「寒い寒い」と言う患者さんに単独で処方したら、はたして「たいそう暖まりました」と喜んでくれました。
コウジンはこのブシ末と一緒に処方しても保健が効きます。冷えて食欲がないという人に対しては効果覿面です。私はこれを「附子人参散」と命名しています。
最近、高齢化にともない子宮脱の患者さんが増えています。軽症なら骨盤底筋群の体操をしながらの補中益気湯が効きます。補中益気湯には升堤作用のあるショウマとオウギが含まれていますが、それだけだと効果が不充分なので生薬末のショウマとオウギを「ちょい足し」します。しかし、子宮全体が垂れ下がってしまったらは効果は期待できません。 疲れ目には杞菊地黄丸が効きますがエキス剤にはないので、六味丸に枸杞の実を乾燥させた枸杞子と菊花を「ちょい足し」します。パソコンのディスプレーを4時間以上見つめるハメになったとき、これを飲みながらやったらラクにこなせたような気がしました。
「ちょい足し」用の生薬の中で一番高価なのはサフランでしょう。1gで500円くらいしますが、保険が効くので7割引です。パエリアなどの色づけで有名ですが活血作用に優れ、桂枝茯苓丸や桃核承気湯などで効果が今一つのときに「ちょい足し」します。
このように今までそれなりに「ちょい足し」をしてきましたが、それに拍車をかけたのが今年の3月4日に行われた日本東洋心身医学研究会でのことでした。群上市民病院の森清慎一先生の講演「不安感、動悸に対する桂枝加竜骨牡蠣湯(+ボレイ末)の有用性」。もともとボレイ(牡蠣)を含む処方の効果を高めるために「ちょい足し」したのです。
おむかえの「はるにれ薬局」の後藤先生に相談したところ、「リュウコツ(竜骨)もありますよ」と心強い返事。竜骨・牡蠣組は動悸をともなう不安に効果があります。代表的な処方として桂枝加竜骨牡蠣湯や柴胡桂枝加竜骨牡蠣湯がありますが、柴胡桂枝湯や大柴胡湯に「ちょい足し」してもかまいません。調子に乗って竜骨と牡蠣だけで処方すると切れ味バッチリでした。「竜骨牡蠣散」の誕生です。漢方がますます面白くなりました。
※最近、社保から「生薬のみでの調剤料は算定できません」と連絡が来ました。急に漢方がつまらなくなりました。
第278回 忙酔敬語 ちょい足し漢方