『北海道医療新聞』で「遺伝カウンセリングの最前線」という記事が10回にわたって連載されました。北大病院臨床遺伝子診療部の先生たちが各臨床科の立場から解説していました。正直言って私にはちょっとというかかなり難しかったけれど10回目の締めは産科の山田崇弘先生。やっとお馴染みの先生の出番となりました。
出生前検査について2012年からセンセーショナルな報道がなされてきました。北大ではすでに遺伝相談が小児科や産科などで行われていましたが、それからはにわかに脚光を浴びるようになり、山田先生はさらに大忙しとなりました。
きれい事を言うようですが、本当のところ、私は出生前検査については優性思想的な感じがしていまいち馴染めませんでした。
ヨーロッパの多くの国では妊婦さんに対して出生前検査が無料で行われています。その結果、異常が出ればじっくりとカウンセリングが行われ、両親の意向に沿った対応がなされているそうです。すなわち人工妊娠中絶を選択しても費用は国が負担する、あるいはハンディを負った赤ちゃんを産む選択をしても社会全体でサポートするというのです。
ドイツでのドキュメンタリー番組で、ダウン症の赤ちゃんを産んだお母さんに対する手厚い取り組みを見て、はじめはさすが先進国と感心しましたが、なにか偽善的て嘘くさく感じました。
そのお母さんは「妊娠中から分かっていて良かった。産まれてからではとても受け入れることはできなかったでしょう」と幸せそうにほほえんでいましたが、知る時期がたんに早かっただけで、産まれてからもケアはできるのではないかと思いました。
そもそも中絶がタダという前提があります。どう考えても優生思想が潜んでいることは否定できません。
山田先生は膨大な情報の対応に苦慮されています。
「私たちはダウン症の方とその親の会である北海道小鳩会とこれまで様々な活動を通して交流を深めてきました。多様性を理解するためにはまず理解し合うことが大切だと思うからです。違うことが決してマイナスではなく違いがあってこそ社会が豊になるのです」
ここで思い出したのがティム・バートン監督のB及SFコメディー映画『マーズ・アタック』。アメリカではあまりのバカバカしさにC及以下とも酷評されました。
火星人が地球を襲撃して人類滅亡の危機に追い込むというハチャメチャな内容ですが、さすがティム・バートン監督、ドタバタも徹底していて、脚本に惚れ込んだ怪優ジャック・ニコルソンが1人2役を買って出たほどです。
細かい内容は忘れてしまいましたが、とくに私の心に焼きついたのは、火星人を撃退したのが、トレーラーハウスに住む最下層のノリス家の中でもさらに落ちこぼれの気の良い青年と認知症のお祖母ちゃんだったということです。彼らの奏でるある音楽の周波数が火星人の弱点で、それを聞いた火星人は次々と頭が破裂して人類は救われたのでした。
アホらしい結末ですが、マイノリティとしてつまはじきにされる人々にも未知なる力が潜んでいるんだという、ティム・バートン監督の温かい眼差しが感じられました。
深刻な問題をこんなふざけた映画で考察するのもいかがなものかと思われるかも知れませんが、思い出してしまったのだから仕方ありません。
第267回 忙酔敬語 出生前検査と映画『マーズ・アタック』