老人介護施設の食事の風景を見たことがありますか? それは大変なものですよ。もちろん、一人で食べることができる方は問題ありませんが、介助が必要なお年寄りにはスタッフがつきっきりでお粥やドロドロの流動食を流し込むように口の中に流し込んでいました。
見るからに不味そうなドロドロ食を認知症のお年寄りは反射的に飲み込んでいました。フォアグラの餌付けを思い起こすような光景でした。まだ、認知症が不完全なお年寄りは「まずい、もう、いらない」と言ってスタッフを困らせます。また、嚥下する能力まで衰えるとドロドロ食も摂れなくなります。
食事が摂れなくなり脱水状態となれば点滴が必要になります。点滴にも限度があり、長期になると血管が炎症を起こして使い物にならなくなります。そこで、現代医学では胃瘻という手段をとることになります。
認知症のお年寄りは自分でも生きているのか死んでいるのか分からない状態です。点滴や胃瘻にかかる費用もバカになりません。『医者とはどういう職業か』(幻冬舎新書)の著者、里見清一先生は、今後、増加する老人医療のため、近い将来、保健医療は破綻するだろうと言っています。これは里見先生だけの意見ではなく、老人医療にたずさわっている先生たちも口をそろえてそう言っています。(『医者とはどういう職業か』は今年読んだ本の中でもダントツに面白かったのでいずれ紹介します。うかうかしていると廃版になってしまうかもしれないので次回、紹介します)。
最近の西洋医学で取りざたされているのが、医師が患者さんの体に触れないで診療をしているということです。具体的な例を2例あげます。
首が痛くて整形外科にかかった患者さん。担当医はレントゲン写真を見たまま患者さんの顔もろくに見ないで言いました。
「薬にする? 牽引する?」。患者さんは怒りのためカッとなったそうです。
もう一つはお腹が痛くて内科を受診した例。痛みが改善しないので当院を受診しました。薬の内容を見るとふつうの胃薬と整腸剤でした。痛い場所は胃から下腹部にかけてで婦人科的にも問題はなさそうでした。どうもストレスが原因みたいで肩こりもありました。
「内科の先生はお腹を触ってくれましたか?」と訊くと「いいえ」との返事。
調度、鍼灸学校の学生さんが陪席していたので言いました。
「これが現在の西洋医学の実態なんだよ。ひどいもんだろ」
学生さんは遠慮してはっきりした返事はしませんでした。そこでさらに訊ねました。
「もし、すっかり年をとって食事も摂れなくなったらどんな治療を希望する? 点滴か胃瘻か、鍼灸マッサージか?」
現在、鍼灸マッサージは基本的に保険が使えません。しかし、実質的なコストは手技料がほとんどなのでそれほどかかりません。お年寄りも点滴で身動きができない治療を受けるよりも、やさしく体に触れてもらい温もりのある治療を希望されることでしょう。ただし、鍼灸マッサージもピンキリで、乱暴な治療をされるとかえって具合が悪くなります。あくまでもしっかりとした技術があることが前提です。
第251回 忙酔敬語 点滴か鍼灸マッサージか