佐野理事長ブログ カーブ

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第747回 忙酔敬語 生かされている。

 讀賣新聞『人生案内』で「精神的に打たれ弱い自分が嫌」という50代女性の相談に対して哲学者の小川仁志先生が、アメリカの思想家、ラルフ・ワルドー・エマソンの意見を参考にしてつぎのように解説していました。

 〈なんとエマソンの論理によると、私たちの背景には万物の根源が備わっているのです。確かに人間という存在は、皆地球上の物質に由来しています。決してちっぽけな存在でなく、地球のエネルギーを備えているのです。現に、時々人はすごいことをやってのけます。

 ご自身もお子さん2人を立派に育て上げた上に、つらくてもちゃんと仕事を続け、さらには自分を変えたいとファイティングポーズまで取られている。もう私からすればスーパーマンにしか見えません。

 人間なら嫌なことがあれば、へこんだり、泣いたり不眠になったりするのは当たり前です。だから、ぜひ自信を持ってください。自分は意外とすごいのだと。〉

 小川先生は『人生案内』一つにつき、必ず一人の哲学者や一冊の哲学書を紹介しています。職業柄さすがだと感心しています。いずれネタが尽きるときが来るかと心配ですがよけいなお世話ですね。  

 さて、この回答で相談者は納得したでしょうか?無理でしょうね。でも私は十分納得しました。心身医学にたずさわっていて、患者さん一人ではどうしても解決できないことがあり、それは患者さんをとりまく環境であると実感しているからです。

 とりまく環境については生態学が参考になります。生態学に思いをめぐらせているうちにしだいに生命の進化にはまり込んで、東洋医学や心身医学関係の学会で発表までしてしまいました。はては2つの看護学校でもテキストとして自分が作成したパンフレット『生命の始まりから終わりまで』を使って講義しました。はたして1つの看護学校の学生から「シラバスと違うではないか!」とクレームが来ました。もう1つの看護学校では、はじめに校長先生に何を話してもよい、と確約を取っていたので無事でした。

 エマソンは天才的な神学者で、考察を深めているうちに宗教的な儀式に疑問を抱くようになり、「キリストは神ではなく人間だ」と言うようになりました。そして小川先生の紹介した理論に到達したのです。私の考え方は理系ですが、哲学でもそれとかなり近いところまで来たため、オレの考えと同じだ!と早とちりの私は反応したのでした。

 心身医学の創設者である池見酉次郎先生は、晩年、心身医学の学術講演会である心理士の一般講演に情熱を込めてコメントしました。

 「生かされている自分に気づきそれに対して感謝の念を抱く、これがカウンセリングのゴールです」

 会場はシーンとなりました。とてもついて行けないや!池見先生の意見は仏教からの視点です。心身医学は医学ですから根底に科学的な思考がないと発展しません。その後、心身医学は新しい発見がないまま現在に至っています。池見先生の存在が大きすぎました。

 このことを何年も前にブログで書いたら、福岡徳洲会病院心療内科の先生から「池見先生がそんなことを言われていたとは知りませんでした」とお便りが来ました。私は「生かされている」のには令和になる前から実感していましたが、最近になってやっと感謝の念を抱けるようになりました。相談者の女性もまだまだ時間がかかると思います。