不眠で悩む患者さんにはスマホの活用をすすめています。ただし画面を見てはいけません。目の刺激は覚醒作用があるので絶対にダメです。好きな音楽を聴くとよいですよ。眠れないときはたいていロクでもないことを考えてしまいさらに眠れなくなります。音楽を聴くとロクでもない考えはシャットアウトされます。「眠りを誘うミュージック」というのもあてになりません。その音楽に興味がなければロクでもない思いが入りこんできます。
具体的にはどんな音楽が良いのでしょう?私自身の経験を語ってみます。これは私の好みの問題なので参考程度にしてください。基本、ピアノのクラシックが好きなのでこの10年ばかりピアノの演奏を聴いていました。
はじめはルービンシュタインの演奏でした。20世紀最大といわれる巨匠の魅力は透明感あふれる繊細な音です。ショパンのノクターン8番の後半、右手の高音へ駆け上がる音色は追随をゆるしません。やがてノクターンにも飽きてバラードを聴いてみましたが流れが冗漫で腹が立ちました。腹が立ったら眠るどころではありません。そこでスケルツォにしてみました。スケルツォは目まぐるしい曲で、こんなんで眠るの?と思われるかもしれませんが私はしばらくの間眠ることができました。スケルツォは4番までありますがほとんど2番か3番で眠りについてしまうので4番までたどり着くことはほとんどありませんでした。あるときイリーナ・メジューエワさんの『ショパンの名曲』を読んだらたびたびコルトーを絶賛しているので聴いてみました。まさにクセツヨ!でした。右手と左手の音がぶれることしばしば。楽譜を参考にしてオジサンが自由に唄っているという雰囲気でした。私が腹を立てたルービンシュタインのバラードはまさに物語を語るようでグッスリ眠ることができました。イリーナさん、ご紹介ありがとうございました。
そのうちネットで変人ピアニストであるグレン・グールドがシブトイ人気を得ていることを知りました。グレン・グールドはピアノのタッチや音色にこだわり、30歳を過ぎてからは演奏会はやめてもっぱらレコーディングに力をそそぎました。ようするにマイピアノではないとダメなんですね。20歳そこそこでバッハの『ゴルトベルク変奏曲』で世界中を驚かしました。私も聴いてみました。驚きはしませんでしたが完璧な演奏だなと感心しました。50歳近くの晩年に再録音していますがこれはユックリでグールド特有の鼻歌がはっきり聞こえます。人前で演奏することはなくなりましたが『ローリング・ストーン』誌などのインタビューには率直に応じています。ピアニストなら誰でも憧れるショパンやリストは「嫌いだね」でかたづけられています。モーツァルトのピアノソナタ『トルコ行進曲』をやけに遅く弾くのはなぜか?という問いにも「モーツァルトは嫌いなんだ」と答えました。十代のモーツァルトはいいのだそうですがその後は人にこびるような作曲でグールドの好みに合わなくなったそうです。そのかわりハイドンのソナタは好きなので個人的にも時間があれば弾いているとのこと。私が中学生の頃、アメリカの恋愛映画『ある愛の詩』が人気を博しました。ヒロインは好きな音楽はビートルズとモーツァルトと言っていました。高校に入ると音楽の先生はバッハとモーツァルトが最高だと言ってました。モーツァルトが嫌いだなんて格好いい!と思いました。そこでハイドンのソナタを子守唄にしました。端正な曲でクセがなく素直に受け入れることができました。効果はてきめんで終わりまで聴くことなく寝入っています。だからソナタは初期の方しか知りません。





