生物の本質は命を次世代につなげ、その数を増やすということにあります。生物といっても様々な種類があり、したがって数の増やし方も様々です。ここでは多細胞生物の動物に限定して考えてみましょう。
生命を次世代につなげるという大原則でいえば一番大事なのは生殖細胞です。イラストレーターなどで活躍しているみうらじゅんさんは、いち早くそのことに気づき、『正しい保健体育』という名著で、男の本体はキンタマで男自体はキンタマがぬいぐるみをかぶったようなものです、と男子中学生に語りかけていました。東京大学の市橋伯一先生も『増えるものたちの進化生物学』で、「個体」としての命よりも個体の中に宿っている「生殖細胞」の命の方が重要であると述べています。
では個体としてはどこが重要なのでしょうか?動物が生きるためには餌を摂るという行為が重要です。ということで正解は消化器です。餌を効率よく摂るために運動して餌を探す必要があります。その運動を調整するのが脳です。ナマコのようにただ砂の中の餌をあさっている動物には脳はありません。ホヤは幼生のときはプランクトンをもとめて泳ぎ回りそのために脳を有していましたが、餌が豊富な岩場にたどり着いた後は脳は必要なくなり吸収されてしまいました。活発な運動のためには循環器すなわち心臓も必要になります。脳や心臓は活発に活動する節足動物や脊索動物特有の臓器なのです。ホヤも脊索動物ですが運動する必要がなくなれば消えてなくなります。
さて大事な消化管を持った動物は外界から体を守るために皮膚が必要になります。皮膚は一見地味な組織ですがなんせ体全体を被うため、臓器別には肝臓をこえて一番大きな重量をしめています。その辺のところを強調して皮膚科の先生たちは胸を張っています。確かに体調が悪いと皮膚の状態にあらわれます。お相撲さんの好不調はテレビで観ていても肌の張りで見当がつきます。私も診療では患者さんの顔や手をマジマジと見ます。
お肌以外の不調の原因はやはり消化器系からはじまります。漢方の使い手の先生も胃腸の薬を切り札的に処方しています。しかも単純な処方をチョイスしています。消化器内科の先生たちは当たり外れのない六君子湯を出したがりますが、大阪の中田英之先生はもっと単純な四君子湯をすすめています。さらには茯苓飲という吐き気止め以外はほとんど処方しないで生活指導に重点を置いた診療をしています。幕末から明治の初期に活躍した浅田宗伯は、治療に行きづまったときは平胃散で何とかなるものであると述べています。ためしに胃もたれの患者さんに処方してみると切れ味バツグンでした。
千葉県の亀田総合病院東洋医学診療科・南澤潔先生は今が旬のノリノリの先生です。煎じ薬を300種類も駆使して奇病・難病を治療しています。その先生のところに吐き気が止まらずどんな治療をしても受けつけない女性の患者さんが紹介されました。メンタルにも配慮されて心理士の面接もしましたがラチがあきません。すっかりやせ細り入院していました。南澤先生が病室に入るとムッとした匂いがたちこめていました。そこで南澤先生が処方した煎じ薬は半夏と生姜の2つの生薬を煎じた小半夏湯でした。小半夏湯に茯苓を加えた小半夏加茯苓湯はエキス剤にもありますが、南澤先生は茯苓はジャマだと判断し、あえてさらに単純な処方にしました。これがみごとに効いて患者さんはみるみるうちに回復していきました。私も小半夏加茯苓湯の効果に疑問を抱いていたのでこの話は痛快でした。





