佐野理事長ブログ カーブ

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第735回 忙酔敬語 パンがなければお菓子にしたら

 フランス革命のときギロチンに散ったマリー・アントワネットが言ったとされていますが本当のことは分かっていません。パリの民衆がパンをよこせと騒いでいます、という報告に対する言葉です。世間知らずの王妃の言いそうなことなのでとうとうマリーが言ったということになってしまいました。

 昨年、お米が高騰して大騒ぎになりましたが、私はこのマリー・アントワネットのセリフが頭をよぎりました。

 「米がないのなら他の食べ物にしたら」

 日本では神代の時代からいわゆる五穀を五穀豊穣と称して大切な食べ物としてきました。五穀は時代によって微妙に違います。『古事記』では米、麦、粟(アワ)、大豆、小豆、『日本書紀』では米、麦、粟(アワ)、稗(ヒエ)、豆です。全部イネ科の穀物かと思ったら、マメまでまぎれ込んでいました。

 日本式の食事をすれば何といっても米がダントツでウマイ、これは確かです。私はダイエットのため、家にいるときはオーツ麦を炊いています。オーツ麦は白米よりも軽くてカロリーも少ないので翌日には体重は減っています。患者さんにも勧めていますが、実行してくださるのは一人だけです。そしてその方は確実に低体重をキープしています。

 『古事記』にも『日本書紀』にも豆が記載されています。私は昭和の時代から大豆の栄養価に注目していました。そのころクロレラが万能栄養食だと騒がれましたが、栄養成分表を見るとビタミン類以外はほとんど大豆と同じでした。最近では煎り大豆が簡単に手に入るようになったため、朝食はもっぱら煎り大豆中心にしたところ体重はしっかりキープされました。最近、高齢でのダイエットはフレイルを悪化させるし顔もふっくらしている方が良いとスタッフにも患者さんにも言われ、120g入りの煎り大豆から75g入りの黒大豆に変更してお米のご飯も食べています。だから体重はちょっぴり増えました。

 昔、『カチカチ山』を読んで、タヌキを捕まえたお爺さんがお婆さんに「タヌキ汁にしてあわ餅といっしょに食べよう」というセリフに触発されて、自然食品屋さんで餅アワを購入してアワご飯を炊きました。食べてみると雷おこしから甘みを取ったような代物で、とても主食としては受け入れることはできませんでした。そしてどうして人々が白米にこだわるのか心底納得しました。

 その白米と並び称されるのが小麦のパンです。子供のとき映画館で『アルプスの少女ハイジ』の実写版を見ました。フランクフルトのお屋敷に奉公したハイジは故郷のお婆ちゃんに食べさせたいと白パンをクローゼットにため込みました。白パンのどこが良いのかサッパリ分かりませんでした。その後、父が「黒パンを買ってきたぞ!」とうれしそうに厚切りの黒パンにタップリのマーマレードをつけて旨そうに食べました。私も食べてみてビックリしました。すっぱくてバサバサして食えたもんではありません。そしてハイジがお婆ちゃんに白パンを食べさせたかった理由が分かりました。白パン=白米です。

 胡桃沢耕史『黒パン俘虜記』には、ソ連軍に抑留された日本兵の苦しみの一つとして支給された黒パンがどうしても受け入れられなかったというエピソードがあります。父はそこの所をクリアしたので生きのびました。そしてそのおかげで今の私がいるのです。よくぞ私に命をつないでくれた!と黒パン好きの父に感謝の念を抱く日々です。