佐野理事長ブログ カーブ

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第722回 忙酔敬語 芎帰膠艾湯

 月経を整える漢方薬として私が一押しの処方は四物湯でした。補血薬の代表格です。当帰、地黄、芍薬、川芎という4つの生薬で構成されています。このうち、当帰、地黄、芍薬の3つに補血作用があり、川芎は血流を促進して痛みをやわらげます。地黄には胃腸障害をきたすことがあり、それを補うのに私は芎帰調血飲を代用してきました。芎帰調血飲には胃腸を保護する生薬が多く含まれていますが補血作用のある芍薬が一つ足りません。芎帰調血飲第一加減という漢方薬には芍薬が入っていますが、保険適応になるエキス剤はなく、小太郎製薬がエキス剤を発売していますが自費になります。

 最近、四物湯の有用性が注目され、2年前の東洋医学会全国大会で四物湯をテーマにしたシンポジウムが3時間にわたって行われました。そこでは甘草が地黄の胃腸障害を解消するのではないか、という意見が出されました。ボンクラな私はその頃、芎帰調血飲にこだわっていたため気づきませんでしたが、最近になって四物湯のもととなった芎帰膠艾湯に甘草が含まれていることを再認識しました。芎帰膠艾湯はもともと女性の不正出血の治療薬として1800年前に考案されましたが、その後、出血していないのだったら止血作用のある阿膠と艾葉や作用を和らげる甘草は不要と、コンパクトな四物湯が登場しました。

 しかし、今あらためてその内容を確認すると、はぶかれた生薬はちっとも不要ではないことが分かります。止血作用のある阿膠は補血作用もあります。甘草は胃腸障害を緩和します。艾葉はいわゆるヨモギで、止血作用として使われていますが鎮痛作用もあり、それほど存在感はなくジャマにはなりません。

 一般に漢方薬は単純な構成から複雑な構成へと工夫されてきました。単純な方が切れ味は良いのですが、それでは効かない症例に対してだんだんと複雑になりました。例外がこの芎帰膠艾湯と八味地黄丸です。八味地黄丸は温める作用のある附子・桂皮を取って六味丸となりました。しかし、中医学の勉強会で、台湾で本格的に中医学を修めた泉里友文先生は、八味地黄丸に含まれる附子や桂皮なんてほんのわずかで、他の生薬の効果を上げるために含まれているため、六味丸なんて必要ないとまで言っていました。

 ここであらためて補血作用のある生薬を確認すると、地黄、当帰、芍薬、阿膠の4つです。4つ全部入っている漢方薬は芎帰膠艾湯だけです。私の知る限りですが・・・・。

 さて補血作用とは何でしょう? 一般には貧血の改善と理解されるようですが違います。組織のすみずみまで栄養を行きわたらせて組織の微妙な損傷を改善するのが補血作用です。女性の場合には卵巣の働きを改善します。生理不順の漢方としては当帰芍薬散や温経湯がよく知られていて不妊症にも使われていますが、私の経験ではあまり効いたという印象はありません。それよりも四物湯の方がシャープに効きます。

 4年ほど前、若い女性の生理不順や不妊というテーマで講演を依頼されたことがあります。過去の症例ではなく、発表までの1年近くにわたって四物湯の症例を集めました。やく37例の症例がエントリーされました。そのうち経産婦さんではありますが、1年近くで10例が妊娠しました。胃腸障害のある症例にはしかたなく温経湯を処方しましたが、温経湯には補血作用のある生薬は当帰、芍薬、阿膠で、地黄が入っていません。補血作用では地黄が一番と信じていたので、今度は温経湯の代わりに芎帰調血飲を使おうと決心しました。しかし、効果は四物湯ほどではありません。今後は芎帰膠艾湯で挑戦します。