関脇の若隆景が伸び悩んでいたとき、大相撲中継でNHKのアナウンサーが「どうしてなんでしょうか?」と解説の白鵬親方にたずねたところ、「オーバーワークですね」と即座に答えました。日本人の親方たちは、判で押したように「稽古不足です」とか「精神力の問題です」とか言うのに、目の覚めるような返答でした。
そもそも筋トレは毎日する必要はないとスポーツ医学では言われてきました。強い負荷で筋肉組織はダメージを受けます。回復するのには2、3日の時間が必要です。すなわち強い筋トレは週に3回程度で十分なのです。その強い負荷も最強なら1日に7秒程度で十分と言われてきました。その理論のもとでブルワーカーという筋トレバネが50年ほど前に流行しました。この器具を説明書通りに使用すると、数か月でマッチョになれるとのことでしたが、ただ強いバネを引っぱって歯を食いしばって7秒キープするだけなので、簡単ではあるがツマンナイ。最近ではあまり流行っていませんが購入はできるようです。
さて相撲はたしかに最強の負荷がかかる競技です。ですから毎日頑張るのは百害あって一利なしです。ただし負荷がかかる瞬間はぶつかり稽古だけです。稽古の場面をテレビで観たことがありますが、たいていの相撲部屋は土俵が1つなので、ぶつかり稽古をするよりも立って順番を待っている時間が長いようです。しかしシブトイ相撲取りは20番も30番もぶつかり稽古をします。若隆景もそんなお相撲さんだったようです。
相撲の稽古はぶつかり稽古だけではありません。四股やてっぽうがあります。とくに四股は相撲独特の稽古で、片脚を高く上げてからドスンと踏ん張るのをくり返します。下半身の強化と柔軟性とバランスが要求されます。きわどい相撲で人気の宇良はとんでもない格好で土俵下に転げ落ちますが、股間が十分に開いて大ケガから身を守っています。
私もお相撲さんの四股に憧れて、子供の頃に挑戦しましたが、体が固くてバランスが悪いのでダメでした。先場所に優勝した琴勝峰の弟、琴栄峰は高々と脚を上げて、さらに3秒ほどそのままでいるので見栄えがあります。
医師で作家の南木佳士さんは、うつ病を患ってほぼ活動停止状態ですが、10年ほど前に『四股を踏む』という短編でご自身の近況を書いていました。メンタルは弱っているが四股を踏んで頑張っているとのこと。へえっ、四股が踏めるんだ、とあらためて感心しました。私は毎日スクワットを100回やっていますが、本当は四股ができたらな、と思っています。負荷はさらに強くなり、その上柔軟性も加わり転倒時のケガの防止に最適です。 四股とかスクワット100回は、このブログを読んでいるほとんどの方には縁のないことですね。近ごろ気になったのは、シドニー大学のチームが英国の医学雑誌ランセットに掲載された1日に7千歩で死亡リスクを半減するという報告です。これまで1日1万歩が目標とされてきましたが、あらためて調査すると、7000歩が現実的な目標になるのではないかということです。1日に7000歩歩くと、2000歩の場合に比べて心血管病による死亡が47%、認知症が38%、癌による死亡が37%、うつ症状が22%、2型糖尿病が14%減ると報告されました。7000歩以上になると死亡率の低下の程度は鈍っていきます。
毎朝、手を大きくふって大股で歩いている人を見かけますが、そこまで頑張らなくてもいいのです。また、以前は一気に1万歩と理解されていましたが、1日のトータルでOKだそうです。健康のためのトレーニングもオーバーワークには要注意です。