先月から新しいタイプの避妊用ピルが発売されました。スリンダという黄体ホルモンだけのピルです。黄体ホルモンだけのピルは以前からミニピルといわれ、一部の医療機関では使用されていましたが、今回のスリンダは厚労省から正式に認可されました。
女性ホルモンには卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類があります。女性らしさを保つのは卵胞ホルモンですが血栓症のリスクがマレにあります。それを見逃しがないように卵胞ホルモンを含むピルを処方する際には体重と血圧のチェックが必要です。体重が急に増加したり血圧が高い場合は血栓症になりやすいからです。その他、高年齢、喫煙者は要注意です。その点、スリンダをはじめとするミニピルは気楽に服用できます。
低容量ピルは生理痛や月経前の不快な症状にも有効ですが、保険の適応になっているタイプは正式には避妊の効果については触れていません。その点、スリンダは276例の症例を見当した結果、妊娠例が1例でした。その1例はチャランポランで7日間も服用をサボっていて、統計の対象からはずしてもいいような症例でした。
黄体ホルモンにはいろいろなタイプがあります。一番古くからあるのがデュファストンで、天然型の黄体ホルモンに近く副作用もほとんどありません。最近、エフメノといって天然型のエストロゲンが発売されました。メーカーはさらに副作用が少ないと言っていますが、あまりにも値段が高いので私はもっぱらデュファストンを使用しています。
黄体ホルモンは更年期障害の患者さんのホルモン補充療法の補助として使われています。卵胞ホルモンが主力兵器ですが、こればかりだと子宮内膜が肥厚して不正出血を起こしたり、場合によっては子宮体がんを誘発することもあるからです。何かの事情で子宮摘除している患者さんは卵胞ホルモンだけでOKです。
黄体ホルモンの第4世代であるジエノゲストは子宮内膜症や子宮腺筋症の第一選択の薬です。体質に合えばつらい生理は止まります。多くの患者さんは「とてもラクになった」と喜んでくれます。長期間処方できますが、なかには不正出血が止まらない患者さんもいます。黄体ホルモンを受けつけるレセプターが足りないんだそうです。ジエノゲストの臨床試験では1日量が1㎎と2㎎では効果の違いはありますが、3㎎になると違いはほとんどないので上限を2㎎としました。しかしほとんどないということは少しはあるということなので、不正出血をきたす患者さんに、昭和の時代からあるルトラールやノアルテンをつけ加えると満足してもらえることが分かりました。ルトラールとノアルテンの違いは正直言ってよく分かりません。それらを発売した製薬会社に問い合わせても歯切れのよい回答は得られませんでした。その会社は高価なエフメノを発売していて、そんな安い薬には興味がないようでした。
最近、長年ジエノゲストを服用している患者さんに「この1年で10kg以上も太ってしまいました」と言われるようになりました。はじめは出血量が減った分だけ体脂肪に回されたのかと思っていましたが、10kgとは尋常ではありません。そこで思いきってルトラールに変更したところ、「むくみも体のだるさも良くなりました」と喜ばれました。なんせ昭和の薬ですから価格も安い。一方、スリンダの黄体ホルモンは水分をため込む作用が少ないので、もし保険が使えるようになれば、ジエノゲストに取って代わる存在となるでしょう。でも保険適応となるにはあと4、5年はかかると思います。