4月の「女性の健康のための教室」で、髙橋 円先生が『体の痛み?心の痛み?』というタイトルで講演しました。
はじめに痛みという概念を説明するために、髙橋先生は広辞苑の解説をパワーポイントで指し示しました。
1.肉体的な苦痛。
2.なやみ。悲しみ。
3.破損。きず。
4.腐敗。
「本日、お話しするのは、1と2で、3,4は今回は関係ありません」
髙橋先生はにこやかにお話ししましたが、私としては、3、4が気になりました。痛みがこうじれば壊れてしまうわけで、食べ物だったら「痛んで」食べられなくなります。
痛みは、単なる症状にはとどまらず、放っておけば破滅にもつながります。
現在使用されている医療用薬物は痛み止めがダントツでトップだそうです。痛みは本当に辛い。洋の東西を問わず、昔から様々な鎮痛薬が作られてきました。
漢方薬でも筋肉や内臓系の痛み止めとして芍薬甘草湯、歯痛専門薬として立効散が使用されてきました。でも効かないこともある。歯の痛みに患部に猛毒の附子を塗ったという記録もあります。附子はトリカブトから取り出した生薬で猛毒です。現在、流通されている医療用の附子は解毒処置とともに痛みの効果もほとんど省かれてしまったので、痛み止めとしてはパッとしなくなりました。昔から附子はちょっと痺れるくらいが効くとされていましたが、そう手軽には使えません。
そこへ登場したのがアヘンです。江戸時代にオランダ医学が盛んになりましたが、外科的手技以外ではアヘンの鎮痛効果が高く評価されました。しかし、アヘンは耽溺作用があり、ウカウカしているとやばくなります。ようするに「麻薬」です。私は学生の頃まで「魔薬」だと思いこんでいました。バカでしたね。
解熱鎮痛薬として幅広く使われているアスピリンは120年の歴史があります。これは耽溺作用はなく安全に使えます。ただし胃腸の弱い日本人には胃痛障害が問題となります。しかし、胃の強い欧米人は現在もアスピリンを鎮痛薬の第一選択としてさかんに飲んでいるそうです。アスピリンは鎮痛効果の他に血液をサラサラにする作用があります。これはほんの少量で効果を発揮するので、脳梗塞や心筋梗塞の再発予防、週間流産の治療、妊娠高血圧症候群の予防など、それこそ様々な領域で移用されるようになりました。
アセトアミノフェンも古くからある薬です。胃にも優しく安全で妊婦さんにも使えます。市販の風邪薬のほとんどにアセトアミノフェンが入っています。小児用のアンヒバ座薬もアセトアミノフェンです。量を増やせばがん性疼痛にも有効とされ、1日4000mgまで処方が許可されています。カロナールという製剤だと1錠200mgを20錠飲んでもかまいないということですが、私自身、そんなに処方したことはありません。がん性疼痛なら、別の選択肢もあります。(次回に続く)