生理不順の若い女性によく見られる状態です。超音波検査では左右の卵巣に多数の卵胞を認め、まるで蜂の巣やレンコンのようです。英語では Polycystic ovary syndrome といい、略して PCOS ともいいます。私はピー・シー・オー・エスと言っていましたが、若い医師がピーコスと言っているので、時代に遅れないように自分もピーコスと言うようにしました。原因はよく分かっていません。男性ホルモンが関係しているという考えから、男性ホルモンを微量に産生する皮下脂肪を減らすべく、まずダイエットを提唱した教授がいましたが、はじめっから痩せている女性に対しては意味がありません。
一時、芍薬甘草湯という漢方薬が効くとされていましたが、じきにはやらなくなりました。月経不順の漢方薬としては、他に当帰芍薬散とか温経湯が有名ですが、正直いってどちらもダメです。ツムラの後援で、若い女性のための漢方薬の講演を依頼されたことがありました。ツムラとしては当帰芍薬散を中心として講演してほしかったようですが、効かない薬については話したくありません。キッパリと四物湯についてお話ししました。
当帰芍薬散は、当帰、芍薬、川芎、沢瀉、茯苓、蒼朮の5つの生薬で構成されています。四物湯は、当帰、芍薬、川芎までは当帰芍薬散と同じですが、沢瀉、茯苓、蒼朮といった3つの利水薬の代わりに栄養を組織のすみずみまで行きわたせる地黄が入っていて、それで4つとなり四物湯なのです。この講演を依頼されてから1年以上の準備期間があったので、赤ちゃんを希望する月経不順の女性に四物湯を飲んでもらったところ、10人中7人が妊娠しました。ただし残念ながら2人は流産しました。四物湯の使い手である福島大学漢方内科の田原英一先生に自慢話をしたら「大したものです」と言ってくれました。
このようにPCOSがらみの月経不順や不妊症には四物湯がベストですが、地黄は胃もたれすることがあるので、胃腸の弱い人には向きません。そこで地黄を含まない温経湯をためすのですが、やっぱり効かない。もっと他にないか?と考えたあげく、芎帰調血飲という産後の不調をただす処方を思いつきました。芎帰調血飲には当帰、川芎、地黄と女性のための生薬がそろっています。その他に陳皮、烏薬、香附子、生姜と健胃剤がそろって胃もたれを解消してくれます。先ほどの講演会のときに芎帰調血飲のことを思いつき、使うチャンスをうかがっていました。そして昨年の初夏からPCOSで胃の弱い女性に半年ばかり飲んでもらったところ、半年後にみごとに妊娠しました。
誰かがためしてうまくいった結果を踏襲して成功するよりも、自分が予測してそれが当たった方が嬉しいものです。理論物理学者の予想が天体観測などで証明されればノーベル賞がもらえます。ブラック・ホールや宇宙の成り立ちについて様々な理論を提唱したホーキング博士は、その理論が具体的に証明されなかったので無冠のまま生涯を閉じました。オレもノーベル賞か?と思いましたが、あまりにもささやかなので、はやり無冠のままです。しかし、今年の東洋医学会で症例報告する予定です。
PCOS自体、すぐに死ぬような病気ではありませんが、子宮の内膜が中途半端に厚くなってダラダラ出血が続けば、子宮体がんになる可能性があるので要注意です。子宮体がんについては定期的な検査のガイドラインはありませんが、このように丁寧に経過を診ていれば見過ごすことはありません。ある教授が、NHKで、体がんの検査方法は子宮内膜をガリガリと削ると言って女性キャスターを恐がらせましたが、まずは超音波検査です。