郷久鉞二理事長は産婦人科領域の心身医学の第一人者です。札幌医大・当院と半世紀以上にわたって産婦人科の一般診療と心身症の患者さんを診てきました。その成果をまとめたのが本書です。この本の特徴は産婦人科の心身医学の基本的な事柄についてはもちろん郷久先生が書いていますが、目玉は日本の心身医学を代表する大家の講演をまとめて紹介した部分です。
Ⅰ部 女性心身医療研究会
Chapter1 女性に関する心身医療 久保 千春
Chapter 2 心身医学的療法について 末松 弘之
Chapter 3 性機能障害の心身医学的診断と治療 石津 宏
Chapter 4 老年期―その影と光 中井 吉英
郷久先生は心身医学の勉強をするため池見酉次郎先生が開講した九州大学心療内科に国内留学をしました。後に日本の心身医学をリードする先生たちと知り会うようになりました。その後の学会でも交流は途絶えることはなく、当院を開業してからも「女性心身医療研究会」を立ちあげて、上記4人の先生を招待して札幌で講演会を開催しました。
講演会の記録を起こしてまとめたのが、「Ⅰ部 女性心身医療研究会」です。現在の産婦人科医でこれほど高名な先生たちに原稿を依頼できる人はおそらくいないでしょう。郷久先生が「この本は100年に残る本だ」と豪語したのも分かります。心身医学の診断や治療法については郷久先生があらためて自ら執筆しています。
私は産婦人科学講座に入った年、婦人科チームに配属されました。そこで出会ったのは癌末期の患者さんたちでした。当時、まだ病名の告知はされず、疼痛緩和に関しても消極的な時代でした。私は人間は誰でも死ぬ、だからターミナルケアは医療の根源とすべきであると考えました。札幌医大耳鼻咽喉科教授の形浦昭克先生も同様のお考えで、学内で「死の臨床研究会」を立ちあげ、大学を退官されてからもターミナルケアの勉強会を指導されました。「Ⅲ部Chapter 11 ターミナルケア」は形浦先生が執筆されました。
産科を診療していると赤ちゃんのケアについて自分が無力であることを痛感します。乳幼児育児の大家であった南部春生先生は天使病院を定年退職されたあと、当院で診療をされました。南部先生にはいろいろ教わりました。「Ⅳ部 Chpter 3 周産期に始まる不安をもつ母親への配慮」は南部先生の原稿をまとめたものです。
若手医師を代表して、札幌医大の磯山響子先生の臨床経験、そして当院の郷久晴朗院長がホルモン療法について掲載しています。
臨床(患者さんを診るということ)は医師ひとりでできるものではありません。3人の心理師(伊藤絵里香さん、清水順子さん、松本真穂さん)、看護師長の大田真希さん、元外来師長の川村洋子さんと紺野恵さんにも執筆をお願いしました。
最終章の「Ⅶ部 女性の心身症における東洋医学」は私が担当しました。読者が喜ぶようにとユルいタッチでコラムを多用しましたが、長すぎる!と削られました。鍼治療も大事なのですが、読んですぐに実戦できるものではないので涙を呑んで割愛しました。