佐野理事長ブログ カーブ

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第663回 忙酔敬語 休暇村でのシンポジウム

 8月31日(土)と9月1日(日)、2日間にわたって支笏湖の休暇村で北海道東洋医学シンポジウムが開催されました。このシンポジウムは昭和の末から行われており、私はほとんど毎回参加して演題発表してきました。ところがコロナのため令和になってからは開催されませんでした。このたび5年ぶりの開催となりました。

 東洋医学はアート的な面があり、患者さんに直に触れて学ばなければなりません。要するに師匠について勉強しなければならないのです。私は出不精で師匠を探すのを怠りました。しかし、このシンポジウムには岩崎先生と下田先生という二人の大家が常連されているので、このお二人を師匠として研鑽し、その後は東洋医学専門医、そして専門医を育てる指導医になってしまいました。今や私のもとで7人もの専門医が誕生しています。

 岩崎先生はもともと北大で物理の研究をしており、その後、何を思ったか医師を目指して大阪大学医学部を卒業されました。よけいなことに疑問を抱く私は「どうして、北大じゃなかったんですか?」と聞くと、「理系の選択科目が阪大の方が有利だったからだ」とこともなげに言いました。宇宙的な最先端の物理と古典医学の不思議な調和を我が物としています。『漢方の臨床』(2021)に「吉益東洞『万病一毒論』―エントロピー的意義―」という論文が掲載されています。私は1、2ページ読んでダウンしましたが、岩崎先生は「2回読めば分かる。寺澤捷年先生は絶賛してくれたぞ」と胸を張りました。腰をすえて読んだら確かに分かりました。あるとき、私が不勉強なのを看破して「『漢方の臨床』と矢数道明『漢方処方解説』くらいは読めよ」と言われました。

 下田先生は赤ひげ大賞を受賞したカリスマ的な臨床家です。今はアコーディオンを弾く好々爺となっていますが、私がはじめてシンポジウムに参加したときの世話人で、毅然として各自の自己紹介の前に言いました。「漢方での自分の立ち位置も説明してください。古方派か、後世方派か、中医学派か、ということです。立ち位置がはっきりしないと議論が噛み合いません」私は呆然としました。とりあえず、その頃信奉していた古方派の大家である藤平先生のことを思い浮かべて「古方派です」と冷や汗をかきながら言いました。下田先生の言われることは神がかっており、「患者は最初の一目で8割り方分かるよ。『肝』に異常があれば青、『心』なら赤、『脾』は黄色、『肺』は白、『腎』は黒いオーラが見える。古典の五臓六腑は現実に合っている。これを脈診で確認すれば完璧だ」脈診をマスターするには師匠につかなければなりません。過去にシンポジウムに参加した先生たちのなかには、下田先生のいる富良野幾寅まで出向いて血の滲むような修練をした方もいました。下田先生は私を気に入ってくださり、「美味しいワインがあるから遊びにおいでよ」と言ってくださいましたが、なんせ出不精なのでとうとう行かずじまいとなっています。

 今回のシンポジウムにはこの二人の大家も参加されました。台風10号で直接参加はできませんでしたが、名古屋市立大学薬理学の牧野先生もWEBで講演されました。私としてはこの三人の先生にお目にかかれれば十分です。石の上にも30年以上、大家のお話しもやっと理解できるようになりました。今の私の関心事は漢方を構成する生薬です。牧野先生はその第一人者で、これからもいろいろ教えていただくつもりです。

 鍼灸部門では常連の南雲先生一派が三人で参加されました。新進気鋭の白鳥先生がアトピーについて講演され、最近、皮膚は大事だ!と実感している私は興味津々でした。