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第652回 忙酔敬語 古生物学者の喜びと苦労 

 最近、日本でも恐竜の化石が続々と発見されていますが、昔は、酸性土壌の日本では化石は残るはずはなく、したがって恐竜の存在を確認するのは無理だ、とあきらめムードでした。また、恐竜の化石がいっぱい発見されるということは、ジュラ紀・白亜紀はとんでもない数の恐竜たちがかっ歩していたのではないか、と考えたことがあります。今、現在の地球上の生物で、数千万年後に化石として残る種ははたしているのか? 少なくとも日本人はすべて火葬にされるから無理だろうなあ、そもそも化石になれる生物ってどんな種なのだろうか? ナメクジは絶対に化石になれないよなあ・・・。同じ軟体動物でも殻のあるアンモナイトは建築資材の柱にでも見られるほどあふれかえっています。

 そんな疑問に明快に答えてくれたのが、泉賢太朗著『古生物学者と40億年』(ちくまプリマー新書)です。泉先生は1987年生まれの37歳です。こんなに若いのにすでに本を2冊以上も書いています。今回の原稿を筑摩書房の鶴見智佳子さんが読んだときの言葉。

 「泉さんの古生物学への愛を感じました」

 今では恐竜の絶滅は、巨大隕石の衝突が主な原因という説が定着していますが、漫画家の手塚治虫先生は『火の鳥』で、恐竜たちがナメクジのような軟体動物に襲われて滅びたように描いていました。その後、ナメクジたちも滅びましたが、化石として残ったのは恐竜の骨だけ。これはこれでアッパレな発想だと感心しました。

 私が懸念したとおり、生物が化石として残る率は、限りなくゼロに近いほどマレなことです。恐竜の図鑑が、あたかもまるで生きているように様々な恐竜を描いているのに対して、泉先生は異和感を覚えています。私が小学生のとき、小学館『地球の図鑑』にはティラノザウルスが灰色のトカゲのような肌をしてゴジラのように直立していました。発掘調査が進むにつれ、トカゲよりも鳥類のイメージが濃くなり、ほとんど四つんばいで全身に羽根をはやしたり、いや、それはやり過ぎだと羽根は首の後ろだけになりました。しかし、幼体だったら全身羽根のようです。今後も新しい発見で姿は変わりそうです。

 古「生物」とはいいますが、私が『地球の図鑑』で恐竜を見たように、泉先生は生物学者ではありません。東大在学中は地球惑星科学専攻でした。今の高校生に分かるように説明するとすれば、ようするに地学です。高校の理科では物理、化学、生物とともに4つの柱の1つです。あつかう範囲が地球の成り立ちから宇宙までと、あまりにも膨大なため、教科書は居直ったように薄っぺらかったように記憶しています。大学受験でも物理や化学ほどは採用されなく、テレビドラマでは西田俊行さんが、地学の教師として屈折した雰囲気をかもし出して演技していました。私の高校生のときの地学の先生は、生け花が本職で、臨時職員でした。でも頭脳明瞭な先生で、宇宙の膨大とともに、その辺縁では高速に近いスピードになっていて、今の理論では説明がつかない、などと印象に残る授業をしてくれました。どうして最近になって日本でも恐竜の化石が見つかるようになったかというと、要するに経済力の問題みたいです。地面を掘り返す量が多くなれば化石の見つかる確率も増えます。表面の酸性土壌をいくらいじくっても何も見つかるばずがありません。

 古生物学者は地学者みたいなので、実際の生物に関しては素人です。ですから化石ばかりでなく、今後化石になりそうな貝などを熱心に観察しています。その他、年代を確認するために物理や数学の知識も必要です。泉先生は一緒に研究する仲間を募集しています。