このところ、つわりを訴える妊婦さんに
「朝と夕方とどっちがつらいですか?」と訊くと、ほとんどが
「夕方の方がつらいです」という返事。
昔は、あまり腹ペコになると、かえって吐き気が増すので、こまめに小さなお握りやサンドウィッチなどを食べるように指導していたものです。ですから、空腹時間の長い朝がつらいのが一般的で、妊娠悪阻(にんしんおそ)の英訳は morninng sickness です。英国圏でも昔の日本と同様に腹ペコが続くとつわりがひどくなるようです。日本の若い女性の生活パターンが変わったため、このような変化が生じたのかもしれません。誰か若い研究者で調査してくれる人はいないでしょうかね。意外な事実が発見されるかもしれません。看護科の学生だったら修士論文のテーマになると思います。
そう言えば、後輩で、妊娠悪阻のことを「にんしんアクソ」と言って看護学生に笑われたヤツがいます。また、ある老名誉教授も講演会で、破綻出血(はたんしゅっけつ)を「ハジョウしゅっけつ」とお話しになっていましたが、さすがに注意するのもためらわれ、先生は正しい読み方を知らないままあの世へ旅立たれました。
いきなり横道にそれました。つわりのことでした。当ブログでも 第48回、つわりの治療(2012.12.24)で、抗がん剤の副作用の悪心嘔吐に使われるゾフランザイディスという制吐剤を紹介したところ、東京からつわりで苦しんでいる妊婦さんから「どこで処方してもらえるでしょうか?」と問い合わせが来ました。ネットで妊娠悪阻について検索していたら当馬鹿ブログにヒットしたのです。「この情報は東京の私大の医学部の若い女医さんがアメリカのミシガン州に留学したときの体験談なので、都内の私大の医学部をしらみつぶしに問い合わせたらどうですか」とアドバイスしました。
この女性は前回の妊娠で、長い期間、まったく食事が摂れず点滴を続けていましたが、何日かすると血管炎を起こして何度も点滴を刺しかえたあげく、とうとう使い物になる血管がなくなり、中心静脈栄養までされました。今回の妊娠では上の子もいることだし長期入院はできません。そのため是非ゾフランを試したかったようです。さいわい、それからは何の連絡もないので何とかなっているようです。
この静脈炎については、最近、耳寄りな対処法を知りました。産婦人科漢方研究会という学会で、岐阜県総合医療センターの佐藤泰昌先生が、長期点滴による血管炎に対して滋陰降火湯という漢方薬が著効したと発表したのです。この滋陰降火湯は一般的に乾燥した咳に使用される薬ですが、もともとは組織を潤して消耗性の炎症を抑える作用があります。この薬を飲んだら翌日から炎症が消えた例もあったそうです。漢方薬はその本質を理解していると適応病名に関係なく威力を発揮します。さすが佐藤先生!と感服しました。佐藤先生とは学会で顔を合わすたびに、「今の演題はひどかったな」などと悪口を言い交わす間柄です。私はふだんは人の悪口は言わないタチですが、たまにこんな学術的な悪口を言うのも良いもので、毎年、佐藤先生にお目にかかるのを楽しみにしています。
ここまで書いてきてハタと気づきました。悪阻がひどい人は何も飲めません。したがって滋陰降火湯が飲めるはずがありません。うかつでした。今回はハチャメチャな展開となってしまいましたが、たまにはイイか、イヤ、いつもハチャメチャか・・・。
第197回 忙酔敬語 つわりに関するあれこれ