今年の札幌の冬は、1月17日のホワイトアウトを除いては積雪も少なく気温も零下10度を下回らず、例年になく穏やかでした。ホワイトアウトの日は講演会がありましたが、なかなかタクシーが捕まらず往生しました。家からタクシー会社に電話してもつながらず、しびれを切らして外に出ても吹雪で数メートル先しか見えず、とうとうスキー用のゴーグルを装着し、やっと流しのタクシーを見つけて会場にたどり着きました。
その日以外はいたって平穏。道北や道東、あるいは留萌や江差などの日本海側が大荒れだったのが気の毒でした。札幌も一応日本海側ですが、すぽっと抜けた感じでした。
私は中学生のときは釧路、そして当院に来る前は北見赤十字病院に勤務していましたが、当時は道東やオホーツク海側が大雪になるなんて考えられませんでした。それが当院に来てからは、北見は大雪に見舞われるようになって市の除雪費はたちまち底をつきさんざんでした。北見の人たちには申しわけありませんが、オレってついてるな、と思いました。
そんなわけで雪解けも早く、3月中旬から防寒靴をスニーカーに履き替えて通勤できるようになりました。通勤の楽しみは季節の変化を間近に見ることです。まだ雪はあちこちに残っていますが、とけた雪の下にフキノトウを見つけました。そして路地にはクロッカスが芽を出し、先週末には白や黄色、そして紫(咲く時期もこの順番です)の花を咲かせるようになりました。もう少しすると水仙も咲くことでしょう。
日の長くなった春の日のウォーキングは冬の間の鬱積をはらし、心身ともに快適になります。妊婦さんや更年期障害の患者さんにも「歩け、歩け」と誰かまわずすすめています。お腹の張っている妊婦さんは注意が必要ですが、10か月に入った妊婦さんにはドンドンすすめています。
まだ生まれるには時間がかかるなと思っていた若いお母さんが、回診のとき、赤ちゃんを横に抱いて嬉しそうにしていたので、「アレッ、もう、生まれちゃったの!」と驚いたところ、「先生が歩けと言うので歩いたら生まれちゃいました」とニコニコしていました。
我が業界のことわざで、「赤ちゃんが動かないときはお母さんを動かせ」と言う言葉があります。お産が進まないときはお母さんの体勢を変えたり、それこそ歩いてもらったりするのです。その点、フリースタイルのお産はベストな方法です。陣痛が乗ってこなかったら、いったん家に帰ってもらうこともあります。
むかし、麻生で開業していた林義夫先生が、「都市型難産」という言葉で注目を集めたことがありました。当時、都市には専業主婦が多く、「三食昼寝つき」と言われていました。そんな妊婦さんがテレビを見ながら食っちゃ寝して過ごすと体重は増えるし、お産も進まないと発表したのです。確かに大学病院でのお産とくらべて出張先の江差でのお産があまりにも順調なのでビックリしたことがありました。
さて、もとにもどってフキノトウとクロッカスの話題。
若い患者さんにも「クロッカスを見たかい?」と訊いたところ、「自転車で来ているので、よそ見をする余裕はありません」という返事。「それに人のウチの庭をジロジロ見たり写メなど摂ったりしたら変に思われますよ」。これには一本取られました。
さすがに写メは摂っていないし、しかも早足で歩いているので、そんな心配はないはずですが、挙動不審ととられないように注意しなければと思ったことでした。
第166回 忙酔敬語 フキノトウとクロッカス