佐野理事長ブログ カーブ

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第588回 忙酔敬語 羽田で富士を見た。

 毎年、3月の第2土曜日に東京の品川で東洋心身医学研究会が開催されています。まさに私のための研究会みたいなので、かかさずに演題を用意して発表しています。今年は3月11日でした。コロナのため現地開催は3年ぶりでした。しかしながら念のためのハイブリッド形式で、心配性の人や忙しい人はWeb参加しました。私は対面が好きなので現地に行きました。この時分特有のちょっとウラ寒い微妙な天気でした。

 帰りは夕方の便ですが、いつも期待しているのが西の方に富士山を見ることです。羽田は広々として、はるかかなたの地平線が見えるので、天気が良ければ必ず富士が見えます。今回はまさにビンゴでした。離陸する飛行機から夕日の中で、まるで北斎の赤富士のようにオレンジ色に輝く全景を拝むことができました。

 富士は日本一の山ですが、地平線の彼方に見える姿はひかえめな円錐形です。けしてそびえ立ってはいません。そこでつくづく思うのは、地球って平べったいんだなあ、ということです。羽田から富士山の距離は94.5kmです。2月に亡くなった『銀河鉄道999』でおなじみの松本零士さんは、生前、「死ぬ前に宇宙から地球が見たい」と語っていたそうですが、宇宙ステーションから地球の距離は400kmで、東京-富士間のせいぜい4倍です。地球はただ雲の合間に青い海が輝いていて、陸地はほとんどが茶色で、所々に緑の植物地帯が見えるはずです。ヒマラヤ山脈がいくら高いからと言ったって10000m以下で、宇宙から見れば平べったいことでしょう。リアルな感じを表現するため、デコボコした地球儀がありますが、あれは間違いで、スベスベにした方が本当はリアルなのです。

 かようにちょっと想像力を働かすだけで自然のいとなみを知ることができます。アメリカの作家エドガー・アラン・ポーは、さらに想像力が豊かで、気球で思いっきり高く上がったら、見た目では地平線の高さよりも真下の方が低く見えるはずなので、地球は凹んで見える、とある短編小説に書いていました。実際に飛行機で上空から真下を見てもそんな感じはしませんが、ポーの想像力の豊かさには感心したものです。

 別に宇宙旅行をしなくても、夜空を見れば衛星である月や金星などの明るい惑星、何光年もの先からとどく星々の光から宇宙の広がりをうかがい知ることができます。きわめつきは太陽です。見た目の大きさは偶然にも月と同じですが、あんな日の丸から多大なエネルギーをもらって生命活動が奇跡的に行われているのが地球です。

 讀賣新聞などの人生相談で、何かと言えば趣味を探せ、というアドバイスがありますが、そんなに簡単に自分の好みに合った趣味なんて見つかりはしないでしょう。私は人とかかわりあうスポーツをするのが苦手なので、趣味と言えば、通勤での行き帰りのウォーキングやブログを書くことだけで、非常に安上がりというか、ほとんどタダです。

 今は、桜も咲きおわり春たけなわですが、真冬もそれなりの風情がありました。零下12℃のなか、若ギツネがすました顔でこちらを見ていて、そう言えばキツネの毛皮は断熱性が高いので猟師や木こりの背負子としての価値が高いと誰か言ってたぞ、とか、老いさらばえたキツネにカラスが襲いかかるのを見て、人生の悲哀を感じたり、作り物の小説や映画よりもリアルに自然を堪能できました。

 当地に来るまでは5年以上続けて同じ住居に住むことはなく、はじめは落ちつきませんでしたが、今では四半世紀以上も同じ土地ならはでの環境の変化を楽しんでいます。