レジェンド葛西42歳は今季も大活躍しています。それなら若かりしころはどうだったかと興味をいだいていたら、ソチ後に特集番組が放映されました。そこに映し出されたのは17年前の長野オリンピックでの葛西選手でした。その姿はまさにチャラ男で、原田選手や船木選手のようなオーラはこれっぽっちもなし。髪が金髪なのはまだしも、体全体が薄っぺらで人間そのものが透けて見えそうな感じでした。これじゃあメダルは当分無理だったと思ったことでした。
スキージャンプのピークは三十前半までとされていますが、葛西選手にとっては四十過ぎなのでしょう。とにかく旬が来るまでしぶとく努力を続けたのは正解でした。まさにレジェンドです。
これに対してあまりにも旬が早かった岩崎恭子さんは可哀想でした。
14歳で、バルセロナオリンピックの200m平泳ぎでの金メダル。
「今まで生きてきた中で一番幸せです」
NHKのベテランの女子アナが思わずつぶやきました。
「この年で今まで生きてきた中だなんて‥‥」
私もその後の岩崎さんの人生に不安を覚えました。やはり、その時の爆発力は続かず、長い長いスランプに苦しみ抜いたあげく引退しました。
しかし、最近の姿を見ると幸せな結婚をされたようで、子宝にも恵まれ、しっとりとした良い笑顔をしています。それまでの苦労が身についたのでしょうね。アスリートとしての旬は過ぎましたが人生の旬はまだまだこれからです。
更年期というと、まるで女性として旬が過ぎたようにとらえる人がいますが、実はその人によって様々です。確かに妊娠については旬は過ぎましたが、人間力は五十を過ぎてからもドンドン伸びる可能性があります。
女性の政治家を見ても、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(60歳)、韓国のパク・クネ大統領(62歳)など、更年期はとっくに過ぎていますが頑張っています。日本の緒方貞子さんも国連で活躍していたのは八十歳前後でした。
京都大学霊長類研究所の所長であった大島 清先生は、老化防止の秘訣として「かきくけこ」を提唱していました。「か」は感動、「き」は興味、「く」は工夫、「け」は健康、そして「こ」は恋です。
恋については、ご自身、20歳も年下のバツイチの女性とお付き合いしていると楽しそうに語っていました。
「年は42歳、良い年頃でしょう?」
当時、四十もなかばの私にはどこが良いのかサッパリ分かりませんでした。しかし、最近になって「まったく、そのとおりだ」と思うようになりました。若いというだけで女性は魅力を発揮しますが、これはただ妊孕力があるための生理的な現象にすぎません。四十を過ぎるとその女性の人間性が浮き彫りにされてきます。イヤな性格の人は人相が悪くなり、反対に性格美人は本当に美人になります。
一昨年前に亡くなられた作家、丸谷才一さんの『女ざかり』の主人公は45歳。12人のボーイフレンドを武器に政界に戦いを挑みます。まさに痛快無比で一読の価値ありです。
第156回 忙酔敬語 人生それぞれの旬