佐野理事長ブログ カーブ

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第557回 忙酔敬語 自律神経の検査

 「わたし、自律神経が悪いんでしょうか?」

 「生きているということはすべて自律神経が関係しています。コロナなどのウィルスが侵入すると自律神経が反応して熱が上がるし、血圧も直接自律神経がからんでいます。冷たい物を食べすぎると腸の自律神経が高ぶって下痢をします」

 「自律神経の検査ってないんですか?」

 「体温計も血圧計も自律神経の状態を調べる手段の一つです。全体的にご本人が元気かどうかは顔色を一目見れば分かります」  

 この「一目見れば分かる」では患者さんは納得しません。

 実際に自律神経測定器なるものも存在します。ある患者さんがメンタルクリニックで状態に応じて自律神経の脈波を測定してもらっていますが、その結果と私の「一目」がピッタリと一致していました。メンタルクリニックの院長先生は私が学生のときに講義などでお世話になっているので「教えてください」と手紙を書きました。

 私は日本良導絡自律神経学会の会員です。この学会は、鍼灸治療に用いる穴の通電性が良いことに着目して、鍼灸治療の効果を高めたり穴の通電量を測定して患者さんの状態を客観的に把握することを主な目的としています。良導絡学会の会員のなかには、良導絡測定値を手帳に記入して生活の自己管理に役立ててその成果を学会で発表された先生もいます。測定方法は手足の代表測定点12ヵ所を通電してグラフにします。けっこう再現性がありますが、一人の患者さんに15分以上もかかり、これも私の「一目」とそれほど変わらないため、会員にもかかわらず最近では実際に測定することはほとんどありません。患者さんによると脈波の測定は血圧測定と同じくらいの手間ですむとのこと。そこでメンタルクリニックの測定法が知りたくなったのです。

 自律神経の測定結果は、数字で表すなどといった言語化することで多くの人に共有することが可能となります。メンタルクリニックの先生は、患者さんの状態を言語化することで本人に納得してもらうのが主なねらいではないかと考えられます。良導絡手帳と同じです。要するに「一目」の結果を具体的に患者さんにも理解してもらうのです。

 ここまで書いて、ふとBSプレミアム『ワイルドライフ』でオオスズメバチの特集を見ました。オオスズメバチは基本的に女王バチを中心とした大所帯です。餌を摂ってくるハチ、子育てをするハチ、巣を強化するハチ、外敵から守るハチなどと様々な役割分担をしています。しかし、新しく巣作りをするときは女王バチ一匹ですべてをしなければなりません。まずは樹液を食べて体力作り。スズメバチは昆虫最強なので先に食べている虫たちを押しのけて悠然と食べます。そして草の線維と唾液を混ぜ合わせて巣を作り、そこへ卵を数十個うみつけます。幼虫には小まめに狩りをして肉団子を与えます。しかし、時として悪天候のため狩りができず、幼虫は餓死一歩手前となりました。お母さんバチはためらわずに一匹の幼虫を引きずり出して噛み砕き、他の幼虫に与えました。人間だったら苦渋の選択になりますが何のためらいもありません。幼虫たちが育てばほとんどが働きバチになって役割分担します。それもすべて本能というか反射的に行われています。

 こうした昆虫たちの緻密な行動を見ていたら自律神経検査がちっぽけに見えてきました。オレの「一目」のどこが悪いんだ!と居直ってしまいました。