先日、「女性のための漢方薬」というお題で講演しました。対象は薬剤師さんが中心とのことで、「中将湯」や「命の母」などにも触れてお話ししました。そこでこれらの女性のための市販の漢方薬を調べましたが、けっこう勉強になりました。人に教えることは自分にとっても新たな発見があります。
まず、「女性のため」ですから「女性の弱点」を5つあげ、それに効く漢方薬について述べました。ご存じのように日本の女性の平均寿命は男性よりもはるかに長く弱点などはなさそうですが、調子を崩した人の多くはその弱点が背景にあります。
1.月経、妊娠、分娩による貧血
正常の女性でも男性と比べると貧血傾向にあります。そこで貧血に効く生薬が基本となります。漢方としては、水っぽい人は当帰芍薬散、乾いた人は四物湯が向きます。
2.更年期障害
更年期になっても更年期障害になる女性は2割ぐらいです。しかしそのつらさは当人でなければ分かりません。気分を安定させる加味逍遥散、女神散がよく使われます。冷えが強くて乾燥気味の女性には温経湯が効きます。
3.月経前症候群、月経前不快気分障害
成熟期の女性の1割が生理の1~2週間前に不調を感じます。めまい、頭痛、乳房痛などの身体的な症状を月経前症候群、イライラや気分の落ち込みといった精神的な症状を月経前不快気分障害といいます。利尿作用のある生薬や気分を安定する生薬を使います。漢方としては苓桂朮甘湯、加味逍遥散など。
4.うつ病、パニック障害
これらの疾患は男性よりも多いのですが、男性と比べると自殺するほど重症にはなりません。うつ病は更年期障害とダブることもあります。治療は向精神薬とカウンセリングが主流ですが、加味帰脾湯や香蘇散などの漢方薬が効くこともあります。
5.血栓症
まれな病気ですがいざ発症すると命にかかわります。高年齢でピルを飲んでいる喫煙者は要注意です。血液をサラサラにする漢方は発症を予防します。桂枝茯苓丸がその代表格です。
先月、コストコに行ったところ、「命の母A」が山積みにされていました。そう言えば当院を受診する患者さんにも「命の母A]を飲んでいる人がけっこういます。内容は当帰芍薬散と女神散と温経湯の合体です。その他、血液サラサラのコウカ、鎮静作用のあるカノコソウが加えられています。
「中将湯」は当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、女神散、四物湯の合体です。何でもござれですね。江戸時代からある「実母散」は色々な製薬会社から出ていて、それぞれ構成生薬が異なりますが、女神散が主体となっています。「ルビーナ」は苓桂朮甘湯と四物湯の合方である連珠飲という処方で、めまいと貧血に効きます。
市販薬の漢方薬の共通の特徴は、生薬の量を抑え、副作用をできる限り生じないように工夫されていることです。ですから安心して飲んで良いと思います。ただし1か月しても効かないようでしたら漢方外来の受診をおすすめします。
第140回 忙酔敬語 女性のための市販の漢方薬