先月、当院恒例の「女性のための健康教室」で、しのろ耳鼻咽喉科クリニックの武市紀人先生に「耳寄りな話~めまいについて~」という講演をしていただきました。昨年まで北大で教鞭をとられていた先生で、実に分かりやすく、しかも面白く、オレも学生のときこんな講義を聴いていたら耳鼻科が好きになったのになあと思いました。めまいの原因は内耳にあるので、本題に入る前のイントロとして外耳についての「耳寄りな話」がありました。それが耳掻きについての注意事項。
耳垢は細菌から感染を防御する働きがあるので、外耳道に傷をつけるおそれがある耳掻きは、頻繁に行ってはイケナイそうです。この辺のところ赤ちゃんの胎脂と同じですね。昔は生まれたばかりの赤ちゃんはすぐに産湯につけましたが最近では羊水を軽くぬぐうだけにとどめています。産湯をつけたばかりに熱を出した赤ちゃんが大勢いました。長い間、カン違いをしていたのです。耳掻きはせいぜい1月に1回、ふつうの耳掻き棒でいいとのことです。日本人特有のカサ耳なら一生する必要はありません。風呂上がりのたびに綿棒でこするのは最悪で、このパターンの人が多いのか会場はややざわめきました。
話は変わり、平成11年の冬、背中が毎晩無性に痒くてたまらず、近所の皮膚科の浜岡先生に診ていただきました。診断は老人性皮脂欠乏症。保湿剤を処方してもらいました。浜岡先生のクリニックでは軟膏の塗り方指導を大切にしているというので、一体どんな方法かと期待していたら、すり込まないでごく軽くチョンチョンと塗るだけでした。なあんだ、それだけかと思ったらこれが大事だと後になって分かりました。皮膚に刺激をあたえてはイケナイので、入浴時のナイロンタオルでの背中の垢すりはやめました。こすっている時は何とも言えないほど快感でしたが、今度は軽く洗い流してタオルでソッと拭くだけ。以来、夜間シーツで背中をこすってのたうち回っていた痒みから解放されました。韓国では垢すりエステが有名ですが、本当に大丈夫なんでしょうかねえ。少なくてもお年寄りはやめておいた方が良さそうです。
さて、わが婦人科領域のお話。外陰部の痒みのために受診する患者さんは毎日のように後を絶ちません。カンジダなどの感染による以外では、慢性の湿疹が目立ちます。2,3か月も前から夜になると掻きむしっている場合は外陰部の皮膚は硬くなっています。「皮膚が虐待されてますね。とにかく掻いてはいけません」。ここまで病状がすすむと強力なステロイドの軟膏が必要です。それから洗いすぎないこと。背中の痒みと同じで刺激は禁物です。軟膏はほんの少量、軽く塗ります。すり込んではいけません。また、下着は風通しを良くしてパンストは避けること。夜は、昔、丸山先生が一世を風靡したように「パンツを脱いで寝る」のがおすすめです。
掻いてはイケナイと書いてきましたが、掻くという行為は人間以外でもイヌやネコにも見られます。自然界で行われていることなので意味があるはずです。学生の時分、皮膚科のカンファレンスでその点について質問してみました。教授は「ウーン‥‥」と言って黙り込んでしまいましたが、新進気鋭の女性の講師が「ノミなどの寄生虫をとるためじゃないかしら」と提言しました。予想していた答えでした。しかし、イヌやネコなら虫取りに掻くことは必要ですが人類には無用な行為です。掻けば掻くほど皮膚病は悪化します。たかが痒み、されど痒み、身近な行為ですが、謎は深まるばかりです。
第131回 忙酔敬語 掻いちゃダメ!