人類は農業を発見してから大いに栄えるようになりましたが、それと引き換えに競争による格差社会が生じて多くの人びとが不幸になったと言われています(本当にそう言い切れるのか?と私は疑問を抱いています)。アフリカのブッシュマンは奇跡的に文明と接することがなかったため、「本当の豊かさを知っている」とジェイムス・スーズマン著佐々木知子訳『「本当の豊かさは」はブッシュマンが知っている』に書かれています。
そんな大がかりなフィールドワークをしなくても花房尚作著『田舎はいやらしい』という本を読むと、文明の発展の停止というか、ほっといてくれ的な人たちが日本のみならす世界中に多数存在することを知って、日本の縄文時代がなぜ一万年にもわたって続いたのか実感できるようになりました。多くの人びとは必要がなければ変わりたくないのです。
この本の副題は「地域活性化は本当に必要か?」。挑戦的なタイトルですね。
都市に住めば分かることですが、活性化とは競争社会です。一生懸命勉強して高学歴を得て多くのチャンスを手に入れる。勝ち組にとっては魅力あふれる場所ですが負け組は惨めです。なかには田舎に引っこむ人も出てきます。そんな人たちに花房さんはインタビューします。そのうちの田舎好き一人と田舎嫌い一人を抜粋します。
串間市出身、串間市在住の女性(29歳)
A「(都会の生活はつらかったですが)今はスナックで楽しく働いています」
Q「それはよかったです。ところで過疎地域の活性化は本当に必要だと思われますか」
A「分からないですけど、必要なんじゃないですか」
Q「でも活性化するということは、都市と同じように競争が生まれるということですよ。 それでもいいですか」
A「それは嫌ですね」
逆に東京の都心で暮らしている女性(32歳)
Q「地元に戻ってくる予定はありますか」
A「おそらくないというか、まったくないです」
Q「それはどうしてですか」
A「嫌で嫌でたまらなく出てきたわけですから、そこに戻ることはないと思います」
Q「どこらへんが嫌でしたか」
A「文化的な教養がないというか、なにもかもTVが中心で、TVに映らないものはクオリティーが低いと思っていて、どうしても話が噛み合わないです。外国人やLGBTに対して差別意識を持っている人も多いですし、女性は勉強しなくても結婚して子どもを持てば幸せみたいなところがあって、そういうところがつまらないというか・・・・・・・・」
Q「ところで過疎地域の活性化(競争を含めて)は本当に必要だと思われますか」
A「それって無理じゃないですか。競争とか無理ですよ」 過疎地に住む人たちは、かように活性化を嫌うため、閉鎖的、排他的になり、結果として「田舎はいやらしい」ことになるのです。そして人口は減少し村落は消滅していきます。でもこれって悪いことですか? 学会などで飛行機に乗って下の風景を見ると、よくもこんな所(山の中)まで人が住んでいるなあ、とあきれることがあります。自然に戻してもいいんじゃないの? 実は花房さんも本当はノンビリした田舎はキライでないようです。