「ピルを飲むと太るって本当ですか?」
「薬自体には太る作用はほとんどありませんけど生理の量は減ったでしょう?」
「確かに減りました」
「1日分10gとして10円玉1個分、1年で3600g、3㎏以上になりますね。それじゃあ、そのくらい体重が増えても不思議はないでしょ?」
「本当にそうですね! 分かりました」
患者さんは納得して帰りましたが、後で調べると、その場しのぎで、かなりいい加減なことを言ったことが判明しました。
まず減った血液の量が1日10g、生理期間中ならOKですが、これが1ヵ月も続くわけではない、せいぜい10日間で1ヵ月100gです。これでは1年間に1.2㎏程度です。
そして10円玉の重さ、1個4.5gでした。1円玉1個1gのノリで答えてしまいました。2個と言えばよかったのです。ちなみに1番重い500円硬貨は1個7gです。
そもそも正常の生理の量ってどのくらいなのでしょう? 教科書には1周期で50~140gと判で押したように書いていますが、誰がいつどのように計ったのか分かりません。「生理の量は多いですか?」と訊いても「人と比べたことがないので分かりません」という答えがほとんどです。女性どおしで生理が話題になることは少ないようです。
オーストラリアでは、ナプキンにしみ込んだ血液を500円玉くらいのコイン5個分以上で月経過多とされていますが(いい加減な記憶です)、日本では一般的ではありません。
私はナイト用ナプキンを使うかどうかで判断しています。ナイト用ナプキンは150mlの水分を吸収します。ふつうならこれで1ヵ月分の生理の量です。2枚以上使っても間に合わなければ確実に貧血への道まっしぐらです。本人はそれが当たり前だと思っていたので、たいてい「本当ですか?」とビックリします。
大きな子宮筋腫や子宮腺筋症がなく、1周期300g程度の月経量ならピルでほとんどコントロール可能です。やはり1年間に2㎏以上太っても不思議はありません。
ではピルは本当に太らないか? というとそうでもありません。ピルは少量の卵胞ホルモンと黄体ホルモンで合成されています。ピルは各メーカーからいろいろな種類が販売されています。卵胞ホルモンはどれも同じです。違いは黄体ホルモンにあり、人によっては体がむくむことがあります。全身パンパンにむくむことはありませんが、むくんだ分だけ体重がいくらか増えます。ただし、体が慣れてくるとこうしたむくみは解消されます。とにかく4,5日は我慢しろと説得する医師もいますが、「慣れるまで待てない!」という女性にはむくまないタイプのピルを処方します。待てない人は、吐き気などピルの飲み始めの具合の悪さにも耐えられないことが多いので、当院では各種そろえて対応しています。
ふつうの低容量ピルではダメな場合は、超低容量ピルと言われている製剤を処方します。副作用はもちろん少なくなりますが、出血量はさらに少なくなり、中には「生理がなくなった!」と心配して自分で妊娠検査薬を買って検査する人もいます。「良かったじゃないですか。サッカーの澤穂稀さんは現役時代7年間外国製のピルで生理を止めてたんですよ」と説明しても「出るべき物が出なくて大丈夫なんですか?」と不安顔。出血が多いと貧血でフラフラ、なくても心配、女の人って大変ですね。