昨年の年末、札幌医大産婦人科同門会で行われた新進気鋭の馬場 剛講師の講演には、オッサン医師たち(私も含む)は驚かされました。
まだ若くて子供のいない女性にも卵巣がんが発症することがマレにあります。今まではとにかく本人の命が一番と、卵巣を摘出したり抗がん剤の投与など何の疑問もなく行っていました。そして、当然のように妊娠はあきらめてもらっていました。
しかし、馬場先生は妊娠する可能性を残す方法があると言うのです。もし患者さんが結婚していれば受精卵を冷凍保存する。未婚だったら卵巣の正常部分を薄くスライスしてこれまた冷凍保存する。そして、いよいよがん治療が無事終了したら体外受精で妊娠にチャレンジするというわけです。
残した卵巣での妊娠率は20%までいかないがゼロではない。ここに大きな意義があると思いました。妊娠をあきらめるということは、今後の人生に対する張り合いもなくなります。命が助かればいいってもんではありません。実際に妊娠するかしないかはともかく、患者さんに希望を残すという意味では素晴らしい研究だと思いました。
ただし、けっこうお金がかかるということでした。少なくとも50万円以上はする。それに、この治療を受ける女性は本当に数が少なく、各施設の連携が大きな問題として残されました。
さすが大学病院の仕事と感服しましたが、我々オッサン医師がたずさわる機会はまずありませんね。
さて、つぎは腰痛の話題。腰痛を訴える患者さんは整形外科だけにとどまらず産婦人科領域でも大勢います。もちろん腰痛だけのために当院を受診する患者さんはめったにいませんけど。内科でも腰痛は教科書にも取り上げられ、オスラー卿の『内科学の原理と実際』の第一版には「急性腰痛には鍼治療が効く」と書かれているそうです。
昨年、私は腰痛を訴える患者さんの前胸部に太さ0.2mm、長さ0.6mmの円皮鍼の附いたシールを貼ったところ、驚くほど効いたのを発見(?)しました。(?)を附けたのは、陰陽太極鍼法の師である吉川正子先生に話したところ、先生はとっくに気づかれていたようだったからです(当たり前か)。しかし、その他の鍼灸の先生は私の知るかぎり誰も気づいてはいませんでした。
そこで、今年はその成果を発表しようと、昨年の10月下旬から今月に入るまで50名の腰痛持ちの患者さんを集めました。整形外科でもないのに3ヵ月もたたないで50名ですよ。多いと思いませんか? 成績は著効が33例、有効が14例、無効が3例と、満足できる結果を得ることができました。著効とは患者さんが「えっ! 何これ、本当?」とビックリするぐらい効いた場合をさしました。有効はこれに準じて「うーん、少し良いみたい」、無効は「何だかよく分かりません」。ねっ、けっこう良い成績でしょ?
昨今、腰痛の85%は原因は腰にはなく、心理的なストレスなど脳にあることが判明しました。腰痛で命を落とすことはメッタにありませんが、悩んでいる人は大勢います。この治療法はお金もかからず、腰痛持ちの人々にとって非常に役立つのではないかと自負しています。オッサン医師は、このようにささやかではありますが、大学の若い研究者に対してもライバル意識を失わずに頑張っているのです。
第105回 忙酔敬語 少ない人の大きな問題、多くの人の小さな問題