「継続は力なりです」。もうすぐ80歳になる患者さんはキッパリと言いました。私が、「今、飲んでいる漢方、あまり効いてないみたいだから変えてみましょうか?」と話したときのことでした。この患者さん、とても元気な方で社交ダンスを週に一回ほど楽しんでいるほどでした。とくに治療の必要はないのですが、もっと元気になりたいと漢方を希望して当院を受診されました。何の薬を出していたのか今となっては忘れてしまいましたが、説得しても聞き入れてくれそうもないので、同じ漢方薬を一か月分処方しました。
このように漢方薬は長く飲むものだと信じている人が多いようですが、そんなことはありません。今ではエキス剤が保健適応になって手軽に飲めますが、昔は生薬を集めることから始まり、それを加工して煎じたり丸薬などにして、それは大変な苦労をしていました。昔の医師がそんな漢方薬を漫然と処方していたとは思えません。すぐに何らかの効果は出たはずです。ただし重症例では治るまで時間がかかったでしょう。大家と言われる医師たちは、そんな治療に苦労した症例についていろいろと書き残しました。そのため、後世の医師や患者さんは、漢方は長く飲むものと思い込んだのではないでしょうか。
更年期障害のために加味逍遥散を2年も飲んでいたという患者さんが来ると、思わずため息が出てしまいます。効きもしないのに何でそんなに飲んでいたのでしょう。私が「とりあえず加味帰脾湯にかえて一週間飲んでみましょう」と言うと、患者さんは「たったそれだけで効くんですか?」と訝しげに訊きます。「2,3日でも分かります。合えばいくらでも処方しますよ」と太鼓判を押すことにしてしています。
体のあちこちが痛いという13歳の女の子が母親と一緒に受診しました。学校でイジメにあっていないか訊いてみましたが、学校は好きだとニコニコしていました。やせていて、お腹を触診するとやはりあちこち痛いと言います。そこで小児によく使われる小健中湯を出そうと考えましたが、すでに内科の先生から処方されていて一か月も飲んでいたとのこと。ちょっと困ってあらためて女の子の顔をマジマジと見つめました。すると唇がカサカサに渇いているのに気づきました。ときどき頭痛もして体が冷えると言います。そこで温経湯かなと気づき、「ちょっと苦いけど大丈夫かい?」と訊くと、「何でも飲めます」と頼もしい返事。二日後は土曜日で学校も休みなので二日分処方しました。二日間で顔色も良くなって、痛みもラクになったとニコニコしていました。そこで調子が良くなったら適当にやめていいよと、二週間分処方しました。冷えの原因について訊いてみると、冷たいジュースを飲んでいるようなので、「ジュースは温めて飲もうね」と念を押しました。
漢方薬の中には体質改善のために長く飲んでもらう場合も確かにあります。月経不順、アンチエイジング、虚弱体質など。しかし、効いてくれば飲む必要はないので、「継続は力なり」ということはありません。漢方薬はサプリメントではありません。必要もないのに飲み続けることは百害あって一利なしです。
十全大補湯という漢方はかなり体力が低下した人に出す薬です。日ごろ体を鍛えている私でも、外来患者さんが混んでくるとさすがに疲れます。テンションが下がると診療も雑になるので、そんな時は医局にもどって十全大補湯を一服飲みます。すると10分くらいで元気が回復します。ただし、ふだんから胃腸が弱い人は補中益気湯の方が向くかもしれません。まさに「即効、漢方」です。
第101回 忙酔敬語 漢方薬の飲み方