佐野理事長ブログ カーブ

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第472回 忙酔敬語 なぜネアンデルタール人は滅びたのか?

 現生人類(ホモ・サピエンス)は、20万年前、アフリカに出現しました。これまで人類は30種近くありましたが生き残ったのは現生人類の1種だけです。この現生人類とかぶっていたのがネアンデルタール人です。ネアンデルタール人は40万年前に現れて2,3万年前に滅亡しました。ネアンデルタール人の生息域はヨーロッパから中近東あたりでしたが、現生人類の一部がアフリカからユーラシア大陸へ進出したことで、両者は1万年近く同じ地域に住むこととなりました。その後、現生人類のみが生き残ったのはご存じのとおりです。さて、どうして現生人類だけが地球にはびこっているのでしょうか?

 ネアンデルタール人の脳は1500g以上あり、1300gちょっとの現代人の脳よりもはるかに立派でした。現生人類も1万年前の脳は1400gもありました。脳は使わなければ退縮します。ちなみにコアラはユーカリの木に住んでユーカリの葉だけを食べて生きているので脳を使う必要性は薄れました。その結果、脳は萎縮して頭蓋骨の中に隙間さえ出来てしまいました。

 野生生活をしていると、何でもかんでも自分で行わなければならないので大きな脳が必要です。文化人類学者のジャレド・ダイアモンド博士は、友人のニューギニア人の方がニューヨークで暮らしている人間よりはるかに知能は高い、と断言しています。

 脳の大きさから素直に考えると、ネアンデルタール人は現生人類より知能と運動能力は上回っていたはずです。言語能力がとぼしかったとか、「平和」とか「神」とか抽象的な概念がないため集団間でのコミュ力に劣っていたとか言っている研究者もいますが、すべて推論です。直接、ネアンデルタール人に会ったこともないのによく言うよ、です。

 アマゾンの奥地にいるピダハンという人たちは、自分が直接したこと、および、直接見た者が言うこと以外は信じないそうです。色とか数とかという概念もない。アメリカ人宣教師がご苦労にも30年近くにわたって布教を試みましたが、「その神様っていうのはお前さんみたいに色が白いのか?それとも俺たちみたいに黒いのか?」ってな調子で話にならず、とうとう宣教師は無神論者になってしまったそうです。このように現生人類にも抽象的な概念がない人がいるのです。仮説は例外を示せばたちどころにボロを出します。

 現生人類は狩りをするときにフックのついた槍を遠くに投げることで、ネアンデルタール人よりも効率よく獲物もしとめたため勝ち残ったという説もありますが、槍を投げるという文化はアフリカや古代ギリシア・ローマなどにはありましたが、日本を含めた東アジアでは馴染みがありません。この説もボツです。捕鯨は特殊なので別問題としましょう。

 産婦人科医の立場から言うと繁殖率に違いがあったのではと考えられます。現生人類がネアンデルタール人よりも多産だったら、能力で劣っていてもいずれは生態系で優位な立場になったでしょう。昔、アフリカで働いた経験のある助産師さんが「アフリカのお産で命を落とす原因のトップは子宮破裂です」と言っていました。栄養状態が悪いのにもかかわらず10人以上も赤ちゃんを産んだあげく疲弊した子宮が破裂してしまったとのこと。

 それから集団としてのクセ。ネアンデルタール人がヨーロッパや中近東付近から外に拡散しなかったのに対して、現生人類はアフリカからユーラシアへ出た後も、さらにアメリカ大陸に渡り、2万年くらいで南アメリカに達してしまいました。現生人類の中においてもユダヤ人やインド人、そして中国人などは世界中あちこちに進出して繁栄しています。