「お薬はいつまで飲まなければならないんでしょうか?」
パニック障害で治療中の患者さんが心配そうに訊ねました。
当初、デプロメール、スルピリド、メイラックスの夕食後3点セットと発作時のワイパックスを処方していましたが、その後、ほとんど発作は起きなくなり、吐き気止めとしてのスルピリドも中止、メイラックスも翌日まで眠気が残るのでジアゼパムにしましたが、これも必要なくなりました。残るはデプロメールのみ、それも1日25mgと最低量です。
「そろそろやめてもいいかもしれませんね」
「やめたらどうなるのでしょう?」
「無理しなければ大丈夫でしょう」
「もし、また悪くなったらどうすればいいんでしょうか?」
パニック障害の患者さんはとにかくマジメで、また、人生に関して悲観的です。まあ、どうにかなるだろう、なんていう人はまずパニック症にはなりません。
「また、お薬飲むんですね・・・」
悲しそうな顔をしました。
ここで思い出したのが、中島らもさん著『アマニタ・パンセリナ』の「咳止めシロップ」の一節です。
ある高校生が咳止めシロップをやめられないのを悲観して自殺しました。咳止めシロップにはコデインという麻薬性の薬が少量含まれていて依存症になることがあります。それに対するらもさんの感想。
〈可愛そうだがバカな子だ。やめられなければ続ければいいのに。〉
これ、心療内科の患者さんに使える!と思いました。しかし、このままこの患者さんに言ってはさしさわりがあります。バージョンを変えてお話ししました。
「まことに失礼な言い方ですが、あと何年生きたいですか?」
このセリフ、どっかで書いたぞ? 多分、何年か前に書いたこのブログだ、まあいいや、何回でも使おうっと。
「・・・」
予想もしない質問に患者さんはしばし沈黙。
「30年?40年?」
「そんなに長生きしたくありません。あと20年でけっこうです」
思うツボに入りました。
「不安のない生活を続けたらもっと長生きできますよ。不安を抱えていたら生きていても面白くないでしょう? デプロメールは安全なので妊婦さんにも使っていますよ」
やっと笑顔を見せてくれました。
ところで咳止めシロップに含まれているコデインは、咳止めとして小児でも使えるフスコデにも入っています。ある患者さんが言いました。
「あの咳止めを飲むと何だか気分が良くなるんですけど、多めに処方してもらえますか?」 さすがにこれでストップとしました。