週間『医事新報』で大阪大学医学部病理学教授の仲間徹先生が再三にわたって、阪大医学部の学生のやる気のなさに絶望している、と訴えています。出席はしないは、講義に対する反応は悪いは、成績にいたっては目を被いたくなるような結果で、毎回、ため息をつかれています。この傾向は最近とくにひどくなっているとのこと。ところが「めばえ適塾」で小学生100人くらいの小学生に専門の細胞や病理、さらには疾患一般について語ったところ、その反応の良さにビックリしました。講義をしている最中でも質問は飛び交うし子供達の目がキラキラとかがやいている。すっかり嬉しくなりました。その様子はユーチューブ「めばえ適塾×仲野」で見ることができます。確かに大阪弁のオッちゃんが幸せに満ちた表情でご機嫌で授業をしていました。仲野先生は子供達の未来が希望にかがやいていると喜びの報告を『医事新報』にしたためました。「それに比べて今どきの阪大医学部の学生は」、と今度は絶望の報告を3回にわたって連載。はて、どうしてこんな風になってしまったんだろう。阪大医学部と言えば東大や京大につぐハイレベルな学生が集まるところです。仲野先生は過酷な受験勉強でエネルギーをついやし、自分で物を考える習慣がなくなってしまったのかと考察されました。
以上、人ごとではないな、と興味を持って読みました。私も大学の助産科や看護学校、さらには鍼灸専門学校からオファーを受けて、年間13回ほど講義を受け持っています。今はやりのパワーポイントを使った講義は学生の眠りを誘うので、原則1回の講義をA41枚のメモにまとめて学生の顔を見ながらしていますが、目の前で学生がウトウト眠りにつくのを見るとさすがにテンションが落ちて、いろいろ話したかった話題に触れる気もなくなり、早々に講義を切り上げてしまうこともあります。試験結果も散々で、なかには試験問題を教えていても白紙で返ってくることもあります。多分、こうした学生はうつ病などで心を煩っているのかもしれません。一番元気なのは鍼灸学校の学生で、モチベーションがはっきりしているのか講義に対しての食いつきも良く、私の診療に陪席したいと希望する学生もいます。やりがいがあるのでこっちもがぜん張り切ります。
今まで一番ひどかったのが札幌医大での講義でした。東洋医学の鍼治療について講義をオファーされました。治療器具一式を持って意気揚々と出かけました。ところが集まった学生は80人程度。担当の教授に「たしか、120人くらいいるはずですよね?」と訊いたら、教授は「一応、そのとおりです」と苦笑いをしました。鍼治療のパフォーマンスを見せようと、「このなかで腰痛や肩こりのある人は手を挙げて」と語りかけてもシーン。「こりゃダメだ」と観念しました。鍼治療は国家試験には出ません。それでも2,3人ばかり熱心に聴いてくれる学生もいましたが翌年からオファーはかかりませんでした。
先日、杏林大学産婦人科教授の谷垣伸治先生の婦人科経腟超音波診断に関する講演会に参加しました。谷垣先生は小学生の理科の教科書も書かれ、さらには小学生に生命の神秘について授業をしています。小学生の反応は「芽生え塾」に劣らず活気に満ち、質問攻めのため休み時間もつぶれてしまうとのこと。その谷垣先生の武器は4枚のカードでした。赤、青、黄色、緑。それを参加者に配って「次の項目で赤と思った人は赤のカードを上げてください」と言った調子で参加型の講演をされました。谷垣先生も杏林の学生には手を焼いているんだな、と思ったことでした。
第396回 忙酔敬語 参加型の講義