低容量ピルの連続投与が浸透してきました。毎月、定期的に生理が来なければならないというのは迷信。生理は女性個人の健康にとってはむしろ迷惑な存在です。女性なら分かりますよね。ただ妊娠かどうか心配です。そこでピルの飲み方が工夫されました。
東大の産婦人科では好きな時に休薬をして生理を起こさせるピルの stop and go 投与が奨励されています。すなわち生理を避けたい日の10日前でそれまで飲んでいたピルをストップ。その後、2.3日で少量の生理が来ます。そして避けたい日までには生理は終了。休薬期間はおおよそ4日間です。その後、再びゴー! それからは不正出血が起きるまでピルを続けます。はじめは40~50日で出血が起きるのでそこで4日間ストップ。それからさらにゴー! これが stop and go 投与です。
どこまでゴーして良いのか日本ではメーカーによって違いますが、おおよそ120日がメドです。当院では生理にこりごりした患者さんが「もう、止めてみようよ」とすすめても「イヤです!」と言って1年以上続行して新記録を更新し続けています。そんなに記録を更新して大丈夫? それが大丈夫なんです。
あの澤穂稀さんはサッカーの現役時代、外国製のピルで生理を7年間止めていました。ちなみにピルはドーピングの対象ではないので外国選手は当たり前に服用しています。そして現役を引退して結婚。子供が欲しいのでピルはストップ。すると間もなく7年ぶりに生理が来ました。ただしこれ1回だけ。一発で妊娠したのです。その後は皆さんご存じのようにめでたく無事に出産されました。
ピルについての講習会にお招きして、ご自身の体験談を特別講演で語っていただいたところ、澤さんのファンである愛知医大の若槻明彦教授が興奮して席を立ち上がり、
「ナイスシュートですね!」と叫んだとか。
かようにピルは自由自在に使えるようになりました。
さて、更年期に入ってからのホルモン補充療法。
多くの人には必要はありませんがホットフラッシュや発汗に悩む女性とってホルモン療法は第一選択です。私は漢方薬も使用していますが、診察室の椅子にまで垂れるような汗かきさんはお手上げで、ホルモン療法をしました。
ホルモン療法の基本薬はエストロゲンです。ただし子宮がある女性は子宮の内膜が肥厚して不正出血を起こしたり、まれに子宮体がんになることがあるので黄体ホルモンをかぶせます。このかぶせ方が難しい。
閉経して間もない頃に、エストロゲンと黄体ホルモンを同時に取り入れると予期せぬ時に出血します。そこでエストロゲンを基盤として定期的に黄体ホルモンを12日間ほどかぶせて月に1回出血を起こして子宮内膜をリセットします。説明してもややこしいし、聞いている患者さんはもっとややこしいと思います。
そこで考えついたのが、エストロゲンと黄体ホルモンの同時ストップ&ゴー投与です。リクツは東大式のピルの stop and go 投与と同じ。そもそもピルはエストロゲンと黄体ホルモンの合剤です。更年期障害の治療にはピルほど高容量のホルモンは必要ありません。原理は同じなので出血すれば7日間ほどストップ。その後は出血するまでゴー! 今後はどう受け入れてもらえるかが課題です。