佐野理事長ブログ カーブ

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第769回 忙酔敬語 がん検診は誰のため?

 北見赤十字病院に勤務していたとき、かなり進んだ子宮頸がんの患者さんを何度も治療していました。受診のきっかけはおりものが多いとか出血が続くとかなどです。もう手術ができる状態ではないので放射線治療をしたり抗がん剤を投与したりしましたが結局は亡くなってしまいました。子宮頸がんは初期の段階だと簡単な手術ですみます。ごく初期では妊娠希望なら子宮を残すことも可能です。

 子宮頸がんの健診は、がんの発症する子宮の入り口の細胞をこすって標本を作製して検査センターに送ります。日本の検査技師や病理医は世界最高レベルなのでかなりの精度で診断がつきます。費用はウィルス検査とくらべて低コストです。それに対して欧米では精度の高いウィルス検査がもっぱらです。私も札幌産婦人科医会の世話人をしていたとき自治体にウィスル検査を助成する運動をしましたが予算の関係で断念しました。それが2年前に厚労省から細胞診から5年ごとのウィスル検査をするようにと指導が入りました。子宮頸がんのウィスルが子宮頸部に取りついてからがんになるまで5年以上かかるからです。世話人を辞めた後、欧米でも技術力の高いドイツでさえ細胞診の的中率が50%だと知りました。なるほどウィルス検査にシフトするはずです。

 婦人科健診は子宮頸がん検査だけではありません。近年、動物由来の脂肪摂取が増加して子宮体がんも多くなり子宮頸がんと肩をならべるようになりました。以前は子宮体がんの検査は子宮の奥深くまでブラシを入れて細胞を採取しましたが、今は経腟超音波の画像がきめ細かくなったためそこまでする必要があるかないかを見きわめられるようになりました。卵巣がんは進行が早いので、年に1回の健診で把握できるかと疑っていましたが、最近、ゆっくりタイプの卵巣がんは早期発見が可能と言われるようになりました。

 したがって厚労省が推奨する5年に1回の検査は産婦人科医たちからブーイングを受けています。がん検診希望ではなくてもピルや更年期障害で通院している患者さんには健診をすすめています。せっかく早期発見のチャンスがあるのに見過ごしてしまうというのは

産婦人科医にとって心の折れることです。ただし内診台にあがるというのは抵抗があるのは理解できます。ですから定期的に通院している患者さんに対しては心の準備が必要なので「次回、がん健診しましょうね」と伝えることにしています。

 性体験のない女性にとっては内診台での診察は気の毒です。ですから基本的に腹部エコーで診察します。10歳代の若い女性でも卵巣腫瘍を発症することもあります。生理痛のために低容量ピルを処方している若い患者さんに対しては年に1回は超音波検査をすすめています。低容量ピルは多くのメーカーが発売していますが、そのうちヤーズ(バイエル)のみが1年に1回以上の骨盤内蔵機の検査を推奨しています。ヤーズ以外のピルも変わりはないのでバイエルの提案にしたがって検査しています。低容量ピルは排卵を抑制します。生理痛もツライものですが、排卵痛の方がツライという患者さんもします。排卵は卵巣の中の卵子が卵巣の表面に縫い針程度の穴を開けて飛び出すので確かに痛みを感じることがあります。運が悪くその付近に動脈が走っていればお腹の中に出血して緊急手術ということもマレにはあります。話がそれてしまいましたが、とにかくがん健診は受けましょう。もちろん患者さんのためですが、本音を言うと医療者側の心の安静のためでもあるのです。 ああ、あのときやっておけばよかった・・・。見逃すのはツライです。