佐野理事長ブログ カーブ

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第751回 忙酔敬語 ポッチャリさんとホッソリさん

 一昔、妊婦さんの体重が増えると、お産がつらくなったり妊娠高血圧症になったり妊娠糖尿病になったりと指導を受けることが多々ありました。そんな中で母性衛生学会の一般演題で肥満妊婦の分娩経過に関する統計が助産学校からエントリーされました。結果は意外にもポッチャリさんの集団の方がホッソリさんよりも分娩経過時間が短いというもので、応募者はたまたま順調なだけだったもしれないという考察をしていました。

 それに対して私はそれが真実なんだよ、と心のなかでエールしました。分娩が近くなると内診して状況を確認しますがポッチャリさんの方がホッソリさんよりも産道の伸びがよいと経験していたからです。

 妊婦さんの体重の増加に関しては10kgを越えてはならないと言われていて、ポッチャリさんはツライ思いをしていました。予定日に近くなった妊婦さんが110kgに達したとき「もっと運動しなければダメだ!」とさんざん注意しましたがポッチャリさんは「動けません」とつらそうな顔をしました。オレは相当憎まれているはずだと思いましたが、その後、あっさりお産をしたポッチャリさんは「先生、こんなに動けるようになりました」と100kgを切った体をゴムまりのように弾ませていました。このあたりでポッチャリさんを苛めるのはやめようと思いはじめました。

 一方、昭和50年代の終わり頃から日本の出生時の体重が減り始めました。そのあげく小さい赤ちゃん用の紙おむつのCMがテレビで流されるようになり、「ちょっと変だぞ?」と問題視されるようになりました。当時、小さく産んで大きく育てるというのが定説でしたが、それが間違いと分かってきました。小さく産まれた赤ちゃんは確かに成長を取り戻そうとぐんぐん大きくなりましたが、その行き着く先は肥満と生活習慣病だということが判明したのでした。

 そこで産婦人科学会は方針を変え、ポッチャリさんを苛めるのはやめようではないかということになりました。効果は徐々に現れ、10年ほど前から3000g超えの赤ちゃんの数が増えてきました。小さいオムツも売れなくなったようです。

 最近、ある学会誌に痩せの女性に性交痛を訴える頻度が高いという抄録が掲載されていました。今、AIで検索してもどこの誰が発表したのか不明ですが、私の経験からそのとおり!と思いました。性交経験のない若い女性の診察は気を使いますが、ポッチャリさんだと意外に膣の伸びが良好で経腟超音波が無理なくできることがあります。脂肪はカロリーの蓄積だけでなく性ホルモンも分泌しています。それも影響しているのかもしれませんがまだハッキリした見解は出ていません。

 話は変わりますが、妊娠糖尿病の診断について私は疑問を抱いていました。昭和の頃はブドウ糖50gの負荷試験をしていました。アメリカでは100gでした。そのうち日本人の体格が向上してきたので75gの負荷試験となり現在にいたっています。当時よりもさらに日本人の体格は大きくなり大谷翔平まで現れました。また不思議なことに現在のアメリカでは日本と同じ75gだそうです。いくら日本人が大きくなったからといって先ほど話題に取り上げたポッチャリさんばかりでありません。こがらな妊婦さんにはそれなりの負荷試験をするべきだと考えたこともありますが、この検査はあくまでも診断ではなくスクリーニングなのであえて変更することはないでしょう。