佐野理事長ブログ カーブ

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第745回 忙酔敬語 外陰部痛

 病変がない外陰部痛を訴える患者さんの対処は苦労することが多々あります。今年に入ってから心身症外来を定期的に受診している患者さんが外陰部痛を訴えました。漢方薬での治療を希望したのでいろいろ験しましたが全部ダメ。さいごは痛い部分に塗るようにと局所麻酔薬のゼリーを処方しました。

 あんなんで良かったのかなあ?と思いながら3月14日の日本東洋心身医学研究会に参加しました。外陰部痛に関する演題が2題ありました。2つともスライドの片隅に参考文献として当院が発表したものが紹介されていました。

 「あれっ、俺たちこういった病気のメッカだったんだ!」

 もっと気合いを入れて頑張ろうとあらためて思いました。

 まだ昭和の頃、札幌医大病院婦人科心身症外来を担当していたとき、60歳すぎの女性が外陰部が痛いと言って受診してきました。痛みのため札幌中の産婦人科をドクターショッピングしていました。小太りで顔色は良好、声は大きくそれまで治療を受けてきた施設について不満を上げていました。それまでの治療内容はごく常識的なものでこれといった問題点はありませんでした。漢方については今よりも未熟でしたがあの手この手で治療しました。週に1回の金曜日の外来、なかなか治らずこの患者さんのカルテと大きな声を聞くたびにため息が出てきました。さいわいにも私に対する怒りはまだないようでした。

 3ヵ月を過ぎたとき、何のはずみか突然「実はわたし、寂しいんです」と机に顔を伏せて泣き出しました。顔色と大声で気づきませんでしたが患者さんの根底はうつ病と悟りました。うつ病で一番注意しなければならないことを確認しました。

 「ひょっとして死にたいと思うことはありませんか?」

 「はい、毎日どうやったら死ねるかと考えています」

 当時、はっきりしないうつ病を仮面うつ病と言っていました。まさに仮面うつ病でした。さっそく切れ味のよい四環系の抗うつ薬ルジオミールを処方しました。2週間後、患者さんは痛みが良くなったと晴々とした表情で受診されました。ご主人とは死別して同居している長女は多忙で留守がちでした。その後、3ヵ月で治療は終了しました。

 このいきさつは患者さんの了解を取って論文にまとめました。発表することで診療に苦慮している医師たちの参考になるからです。

 あらためて痛みの取れない患者さんの顔を見ました。マスクで顔色や目の表情しか分かりませんでしたが、暗く、「うつ」がひそんでいると判断しました。最近は痛みをともなう「うつ」には副作用の少ないSNRIが推奨されていますが、切れ味は今一つです。一番古いタイプの三環系のアナフラニールを10mg処方しました。1週間後、患者さんは「まだ痛みはとれません」と受診されました。体格が立派で10mgでは効かないと判断しましたが患者さんは漢方薬を希望していました。あと3日で良くなるからと20mgにして服用するように説得しました。3日後にいらした患者さんの目つきは明るくなっていました。痛みもピタリと治っていました。アナフラニールを追加処方しました。合わなかった漢方薬のせいか胃の調子が悪いとのこと。とっておきの平胃散も処方しました。

 「これまでの経過を発表してもいいですか?」

 こころよく応じてくださいました。40年前と同じような展開となりました。