佐野理事長ブログ カーブ

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第742回 忙酔敬語 漢方はお稽古ごと

 BSで放送大学を見ていたら、市民公開講座で薬学の名誉教授が新薬が認可されるまでの話をしていました。新薬ができたら臨床試験をしなければなりません。第一相試験、第二相試験、第三相試験と認可されるまで10年くらいかかるそうです。その費用はだいたい500億年。よほど体力のある企業でなければ新薬の開発はできないとのことでした。

 ここで思いを巡らしたのが漢方薬のことです。1976年にどさくさに紛れるように多くのエキス剤が認可されました。本来なら臨床試験をしてから届けを出すべきなのですが、何せ1000年以上の歴史があるので医師会は押し切ってしまいました。この辺に関する厚労省の役人の恨み怨念で、漢方薬エキスはときおり保険収載からはずされそうな危機に瀕しています。いまさら「恨み怨念」はないと思うのですが、東洋医学の会員には本気でそう考えている先生もいます。

 各メイカーの保険病名を見るとこのどさくさぶりが垣間見られます。当帰芍薬散を例にとってみましょう。ツムラでは貧血、倦怠感、更年期障害、月経不順、月経困難症などが掲載されています。クラシエのベストファイブは月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害です。この2社で当帰芍薬散は女性薬としてのイメージがわくでしょう。ところがコタローは心臓衰弱、腎臓病、貧血症、産前産後あるいは流産による貧血症、痔核とかなりおもむきが変わっています。オースギは月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害がベストファイブです。

 このような保険適応名を見ると当帰芍薬散は何の薬だか分からなくなるでしょう。ここで当帰芍薬散にならぶ婦人薬である桂枝茯苓丸の保険病名を見てきましょう。ツムラは子宮並びにその附属器の炎症、子宮内膜炎、月経不順、月経困難症、帯下などです。その後に更年期障害も続きます。クラシエは月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症などなど。コタローは月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症などなど。オースギは月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症とコタローとほぼ同じです。更年期障害があちこちに出てきますね。では実際に更年期障害の患者さんにはどう対処すればよいのでしょう?

 昔、漢方の大家が弟子を連れて歩いていたら向こうから二人の女性が近づいて来ました。

お嬢さまと女中さんといった感じでした。師匠は言いました。

 「おい見ろ、当帰芍薬散と桂枝茯苓丸が歩いているぞ」

 お嬢さまは色白でホッソリしていました。お女中は赤ら顔でがっしりしていました。

 当帰芍薬散はよぶんな水を出して体を温めます。そして貧血を治して痛みをとります。桂枝茯苓丸は血が滞っている女性の代表的な薬です。顔はのぼせて赤く唇の色はまだらです。このエピソードはけっこう有名な話です。参考にはなりますがすべてではありません。 当帰芍薬散的な女性がなかなか骨盤痛が改善しないために当院に来ました。診察すると骨盤に血が滞っているのが判明しました。そこで桂枝茯苓丸にかえたところラクになったと喜んでくれました。西洋薬が病名とほぼタイアップしているのに漢方の世界はアートです。こうなるとただ本を読んで勉強するだけでは使いこなすことはできません。師匠について勉強するとか自分の成果を発表することが大事です。うまくいかなくても勇気を出して発表すれば誰か助言してくれるものです。