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第734回 忙酔敬語 漢方以外のつわりの薬

 昨年の4月から吐き気止めのドンペリドンの「妊娠禁」が解除されました。どういう理由か分かりませんが、それまでは何を調べても「妊娠禁」となっていました。3年ほど前のNHK朝のニュースで3万例ほどのデーターで解析したところ妊婦への影響はなかったと報道されました。これまではプリンペランやビタミンB6のピドキサールといった薬が処方されてきましたが、これからはもっと強力なドンペリドンも使えそうです。もっともドンペリドンは「つわり」に関しては正式に適応にはなっていないので慎重に使わなければなりません。でも本当のところ漢方以外では「つわり」適応の薬はありません。

 めまいをともなうつわりもたまに見かけます。これにはトラベルミンが効きます。修学旅行のシーズンになると酔い止めとして希望する中高生に行きと帰りで2錠処方しています。耳鼻科でもめまいの処方の一つとなっています。漢方薬では吐き気とめまいを目標とした小半夏加茯苓湯が相当しますが粉の苦手な中高生はいやがります。

 つわりの時期に注意しなければならないのは15%の妊婦さんが抑うつ状態になることです。東京都が2016年に東京23区の妊産婦の死亡原因を10年間ふり返り調査をしたところ、妊娠初期の自殺が死因のトップと判明したため日本中に激震が走りました。しかし、頭を冷やして同年代の妊娠していない女性の死因を調べたらやはり自殺がトップでした。

まあ、女性はなかなか死なないのです。

 つわりでメンタルも病んでいる女性に使える薬があります。気持ちが不安定でジッとしていられない、という妊婦さんにはピレチアが効きます。もともとはアレルギーの薬ですが鎮静作用と制吐作用もあり、これにくしゃみでもしていたら一発ですべて解決です。

 テンションが落ちて食欲もない、夜も眠れず死への願望も出てきた、という場合は抗うつ薬のリフレックスが威力を発揮します。リフレックスが登場した当時、製薬会社は「これでうつ病の治療は完成した!」と鼻息も荒く胸をはっていましたが、それから半年後、体重が増加した患者さんが続出したため、ちょっと待った的な雰囲気となりました。しかしリフレックスは数日で威力を発揮するので妊娠初期といったかぎられた期間の治療にはもってこいです。

 わたしの知るかぎり一番制吐作用があるのはオランザピンです。精神病に使われる薬ですが、強力な制吐作用のため抗がん剤の副作用の吐き気にも適応があります。最初に紹介したドンペリドンも抗がん剤の吐き気に適応がありますが、オランザピンはそれ以上の効果があります。オランピンは精神状態がピレチア以上に不安定でリフレックス以上に眠れないという人に最適です。これまた食欲を増進させるので糖尿病の患者さんには使えませんが、なんせつわりですから使用期間は限定です。食欲が出てきたら治療は終了です。3年ほど前、4歳の女児が両親に殺害されたという事件がありました。方法は不凍液とオランザピンの投与でした。死因は不凍液にありオランザピンは関与しません。私はその頃からオランザピンをつわりの患者さんに使っていたので「困ったものだ」と思いました。それ以後オランザピンを処方するときはこの事件についても言及しました。情報は正しく公開しなければいけません。当然「そんな薬はイヤです」という患者さんもいましたが、つらくてどうしようもない人は受け入れてくれました。さらに経産婦さんのなかには「今回のつわりは早くラクになって良かったです」と喜んでくださる方がかなりいます。