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第719回 忙酔敬語 アンパンマン

 昔、朝日新聞の『声』の欄に小学4年生の男子の投稿が掲載されていました。

 「アンパンマンは工夫がたりない」

 〈バイキンマンが毎回、あの手この手で悪いことをするのに対して、アンパンマンはワンパターンで、ああ、顔がぬれた~、などと言ってやられてしまう。こんなことでいいのだろうか?〉

 こんな小学生の投稿を掲載した朝日新聞のフトコロの深さに感心するとともに、男の子の言うのももっともだと、こっちの方もあらためて感心しました。そして、この年頃から子供の心はアンパンマンから離れて行くのだと気づかされました。

 やなせたかしさんも、そのことに気づいており、自伝で「アンパンマンは不思議と2、3歳の子供に人気がある」と書いていました。はじめから意図して2、3歳の子をターゲットにしたわけではないようです。HNKの朝ドラでも、なかなか大人の世界では認めてもらえず苦労していました。

 私の孫娘も2歳のときにアンパンマンにはまりました。踊りながら「アンパンマンはギギッター♪」と歌うので、こちらも「アンパンマンはギギッター」と言うと、怒って「違う、アンパンマンはギギッターだ!」とムキになりました。これは『アンパンマンたいそう』の「アンパンマンはきみっさー」だとしばらくしてから分かりました。

 そう言えばこの子の母親、すわなち私の娘も2歳のとき、野阪昭之作詞の『おもちゃのチャッチャッチャ』を「おもたのタッタッタ♪」と歌ったので、からかって「おもたのタッタッタ」とマネしたら怒って「タッタッタじゃない、タッタッタ!」と言いました。どうも聴覚よりも発音の方が発達が遅いようです。うちの子にかぎってですが・・・・。

 やなせさんは大正8年生まれで、満州方面へ徴兵され苦労しました。私の父の1つ年下で、父のようにシベリヤ抑留は免れましたが、飢えた体験は同じです。漫画家になってからは年下で天才の手塚治虫さんに歯が立たず焦ったようですが、長い目で見ると手塚さんを凌ぐ業績をあげています。

 手塚さんはわずか60歳で過労死。それに対してやなせさんは94歳まで頑張りました。アンパンマンはジワジワとキャラクターを増やしました。青いドキンちゃんが描かれたソックスを履いている妊婦さんがいたので、「ドキンちゃんは赤じゃないんですか?」と聞いたら、コキンちゃんとのことでした。ある日、一人でテレビを観ていたら「アンパンマンとクジラのクーちゃん」という番組が放映されていました。キャラクターを生み出すのは良いが、あまりにも安直なネーミングだなあ・・と、その頃になってやっと私の心はアンパンマンから離れました。われながら奥手です。

 さて、どうしてアンパンマンは幼い子供に人気があるのか?多くの動物は生まれた時点で外界の物事を認識できますが、ヒトの赤ちゃんは大型コンピューターのように、生まれてから様々な事象をインプットしなければなりません。しかし、お母さんの顔などを識別するため、人間の目鼻の位置は始めからインプットされているそうです。それで分かりやすいアンパンマンの人気が高まるのでしょう。

 ところで鳥丸明さんの『ドラゴンボール』も、スーパーサイア人が登場してから私の心から離れました。『Dr.スランプ』は本当に良かったのになあ・・・。私はまだ子供です。