「わたし、もう更年期なんでしょうか?」
よくある質問です。更年期の定義をあらためて紹介します。
更年期とは閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間である。
閉経後の5年間はピンと来ますが、閉経前の5年間と言われても分かりませんよね。
不妊症の検査の一環としてAMH検査(抗ミュラー菅ホルモン検査)があります。卵巣に残っている卵子の数を推定する検査です。20年ほど前、この検査に詳しいある大学の教授が札幌で公演しました。私はこの検査でいつ閉経するかが予測できると期待して参加しました。ところが開口一番、教授は「この検査で、閉経の時期を予測することはできません」と言いました。これで回れ右をしようかと思いましたが、ほぼ最前列に座ってしまったので帰るに帰れませんでした。
閉経の定義は、子宮のある女性においては、12ヵ月以上無月経となって初めて診断されます。更年期に入ったかどうかは血液検査で規定されることはできません。それでも更年期になったかどうかを検査してほしいという患者さんはけっこういます。AMH検査は値段も高いので、私は卵胞刺激ホルモン(FSH)と卵胞ホルモン(エストラジオール、E2)の検査をすることにしています。卵巣の働きが低下すると、脳から卵巣に「しっかりせんか!」と励ますFSHが上昇します。これで更年期が近いかどうかは推定できますが、ここで「もう閉経です」と言ってはいけません。寝ていた卵巣が何らかの刺激でまた甦ることは多々あります。
この寝ている卵巣の働きもバカにはできません。子宮筋腫などで子宮全摘をする際、、もう卵巣は働いていないと判断して、卵巣も一緒に取ってしまうと猛烈なホットフラッシュに襲われてしまうことがあります。この寝ている卵巣の働きを評価しているある教授は、その後の生命予後にも影響をあたえますと忠告していました。要するに卵巣を取ってしまうと早く死ぬと言うのです。子宮を取るついでに卵巣も取るかという選択は多くの婦人科を悩ませてきました。
子宮を取った後に、気の毒にも卵巣癌になった患者さんを経験した婦人科医師は少なくありません。卵巣癌はなかなかやっかいです。卵巣癌の研究をしていたある大学の女性の教授は、もし、自分が開腹する手術を受けることになったら卵巣も取るように希望しているとまで言っています。先ほどの寝ている卵巣の働きを評価している教授の研究成果は、私にとっては心のわだかまりを解消してくれました。
「わたし、もう更年期なんでしょうか?」と心配する女性は、若いときから体が弱い傾向にあるようです。あるいは、種々の原因で疲れはてているようです。そして更年期というお墨付きを期待しているようです。「まだ更年期ではありません」とハッキリ言うのも気の毒です。とりあえずは更年期についての説明をして、患者さんの症状に応じてアドバイスをしたり治療をしたりすることにしています。更年期のためにホルモン補充療法を必要とする女性は、全体の2、3割と意外に少ないようです。治療を必要とする女性は弱虫かというとそうではありません。ガッツのある女医さんも苦しんだと言っていました。