5月17日(土)、日本東洋医学会北海道支部の教育講演会が開催されました。第一席は当院の月曜日の外来を担当している磯山響子先生、第二席は群馬で耳鼻科を開業されている竹越哲男先生でした。
東洋医学会では、今後、いかに漢方の理解を広めていくか、というのが大きな課題となっています。磯山先生は、札幌医大で学生の教育に力をそそいでいます。竹越先生はユーチューブをとおして漢方の魅力とコツを発信しています。そういった意味でタイムリーな企画でした。
竹越先生のことをよく存じ上げなかったので、前日、ネットで検索しました。これが実に面白かった。
「立てば苓桂、回れば沢瀉、歩くめまいは真武湯」
めまいに効く漢方を、「立てば芍薬、坐れば牡丹、歩く姿は百合の花」という美人を花にたとえる表現にもじって、方剤に言い換えた言いまわしです。
立てば「苓桂」は苓桂朮甘湯のことです。若い女性のめまいによく使われます。回れば「沢瀉」は沢瀉湯のことです。頭を動かしたときに生じる良性突発性頭位めまい症の特効薬です。保険薬のエキス剤にはないので、私は薬局に頼んでオースギの四苓湯に沢瀉と蒼朮を加えてもらって代用しています。真武湯は高齢者のめまいの第一選択の処方です。
この口訣は竹越先生の発案ではありませんが、竹越先生が歯切れ良く説明すると、笑いが込みあげます。
竹越先生は漢方の勉強会を精力的に行っていました。しかし5何前の新コロナで対面でのお話しができなくなり、WEBでの講演会となり、なりゆきでユーチューブを多用する事態となりました。ここで竹越先生の才能が花開きました。
「わたくしは耳鼻科漢方の伝道師でございます。エキス剤中心なのでエキスパート」
「子供大好き、精神年齢が子供だからです」
「当院には高齢者が多く来られるため待合室は竹越老人サロンと言われています」
「漢方は伝統医学で古くさい?では古典はどうなんですか?クラシックはダメなのですか?黒魔術みたいですって?それならばわたくしは引き回しのすえ火あぶりの刑になるでしょう。ガリレオ・ガリレイが意義をとなえた天動説のままとなります」
竹越先生をお招きすることになったのは、釧路で皮膚科を開業されている松田先生の強い推薦によるものでした。2年前に福岡で行われた全日本東洋医学会のシンポジウムで竹越先生に惚れ込んだそうです。
当日、竹越先生はマイクを使いませんでした。声が大きいためマイクを使うとハウリングするからです。竹越先生の目の前に坐った私は、その大声に圧倒されました。声だけではなく、表情も実に豊かで、つらそうな患者さんを説明するときは実につらそうな顔をされました。90分の講演時間はアレヨアレヨという間にたってしまいました。
講演会の締めの挨拶は支部会代表世話人である私が行いました。開口一番に言いました。 「竹越先生、先生は落研出身ですか?」
ビンゴでした。群馬大学医学部学生時代の6年間、一番役にたったのは落研での修行だったとのことでした。