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第696回 忙酔敬語 漢方薬が健康保険除外になるって?

 日本東洋医学会が「漢方の保健医療を守ろう!」というポスターを作りました。ある国会議員が医療費削減の対策として、OTC類似薬を保険対象外にしようと提案したのを受けての行動です。

 OTC類似薬とは、ドラッグストアや薬局で医師の処方箋なしで購入できるOTC(Over The Counter)とほぼ同じですが、医師の処方箋が必要です。OTC類似薬が保険対象外になれば病院に行く必要はなく、医療費削減につながるとその議員は主張しています。

 ドラッグストアを見回せば分かりますが、漢方薬のコーナーもあります。OTC類似薬が保険対象外となれば、漢方薬も医師と相談することなく購入できることになります。

 私はドラッグストアを訪れるたびに、商売柄、漢方薬のコーナーをしげしげと観察します。風邪薬として知られている葛根湯や小青竜湯は体質に合わなければ、動悸がしたりしてかえって体調をくずします。葛根湯や小青竜湯には麻黄が含まれています。麻黄の主力成分はエフェドリンで、鎮咳作用や体を温める作用があります。エフェドリンは興奮作用もありドーピングの対象になっています。昔、日本の女子柔道選手が風邪をひいて漢方薬を服用したところ、尿からエフェドリンが検出されて失格になりました。それ以降、すべての漢方薬がドーピングの対象となり、全日本や国際的なスポーツ競技では使用できなくなりました。麻黄にかぎればよいのに能のないことです。

 このように漢方薬は患者さんの判断で気軽に選べるものではありません。風邪以外でも更年期障害とか、膀胱炎とか、疲れ、冷え、めまいなどを対象として、様々な漢方薬が置かれています。私は常々、どうやって自分に合った薬を購入できるのだろうかと心配していました。薬剤師ならともかく店員さんと相談してもダメだろうなあ・・・・。

 最近、当院のスタッフから遠方に住んでいる75歳のお母さんのめまいについて相談されました。めまいのためまっすぐ歩くこともままならないというのです。耳鼻科を受診しても治らず、脳外科や神経内科など計5施設で検査を受けました。それでも原因不明と言われました。そこでドラッグストアの漢方薬のめまいのコーナーに苓桂朮甘湯が売られていたので購入しました。苓桂朮甘湯は若い女性のめまいには効きますが、高齢者には向きません。本当は直接お会いして診断すべきなのですが、高齢者のめまいによく使われる真武湯を14日分処方し、お母さんへ送ってもらいました。お母さんは真武湯を飲んで4日目で症状が消えたと非常に喜んでくれました。ここまで1年もかかったそうです。その後は、地元の内科の診療所で処方してもらうことにしました。私は良くなったからといって漫然と飲んではダメですよ、とつけ加えました。

 さて、医療費削減のためと提言されたOTC類似薬ですが、とくに漢方薬に関しては正しく選択されなければ、かえって医療費がかかります。スタッフのお母さんは真武湯に出会うまで、どのくらい費用がかかったでしょうか? 実に気の毒なことでした。

 こうなるまでOTCのように自由に漢方薬の販売を見過ごしていた日本東洋医学会にも責任があると思います。漢方の普及のために撒き餌みたいにあつかっていたとしたら問題です。一応、日本東洋医学会では風邪に対するフローチャートをネットで流していて、漢方専門ではない医師向きの対応をしています。一番良いのは学会に入って一緒に勉強することです。生薬の資源に限りのある漢方薬を大事に利用して欲しいものです。