4年ほど前から札幌でも産後2週間健診が実施されるようになりました。赤ちゃんの検診の意義はそれなりに理解できますが、お母さんにとってはどんな意義があるのでしょう? 以下、思いついた点を説明します。
お産のときの創部は、経腟分娩による会陰でも帝王切開の腹部でもすでに落ちついています。もう離開することもありません。
出血はまだ続いていますが減る方向にあります。出血はふつう1ヵ月健診でも続いていて、完全に止まるのは産後6週間目です。
お産のときに出血が多くて鉄剤を飲んでいたお母さんは、この日に検血をします。その結果は1ヵ月健診で説明しますが、ほとんどの褥婦さんは正常になっています。
母乳栄養の状態は体重測定で見当がつきます。退院時よりも3キロ以上減少していればほぼ完全に母乳で足りています。あまり知られていないのが産後のむくみです。5キロ以上も減って、サッパリしているお母さんもいます。むくみが悪化していればマレではありますが、周産期心筋症という危険な状態かもしれないので、心不全の徴候である咳や息苦しさはないか確認することにしています。問題なさそうなら妊娠中には使えなかった利尿薬を処方します。1ヵ月健診ではスッキリして「おかげさまでラクになりました」と喜んでいただけます。
四半世紀も前、朝日新聞で「ふしぎの国の医療」というコラムが連載されていました。日本で漫然と行われている医療についての辛口の提言でした。
まず、傷の消毒。手術後の創部は当時、毎日、イソジンという比較的強力な消毒薬で消毒している施設がまだありました。シルベスター・スタローン主演の『ロッキー』で、腕に傷を負ったロッキーがロクに消毒もしないで創部を縫合する場面を見て、アメリカでは厳重な消毒はしないことは知っていました。消毒液は細菌をやっつけますが、創部にもやさしくないので、必要なければ塗る必要はありません。
そして術後の入浴。新生児が何らかの手術を受けたとき、アメリカでは翌日から浴槽でジャブジャブ洗います。それに対して日本では入浴は禁止されている施設が大半でした。
お産の後も、シャワーはOKですが、1ヵ月健診まで入浴はひかえることになっています。
昔、褥婦さんの死亡の原因のトップは、子宮内感染による産褥熱だったことがありました。清潔な分娩をするだけで産褥熱は防げるのに、いつの間にか入浴もダメということになってしましいました。私はこの2週間健診を機に入浴OKとすることにしました。
母子手帳には産後の入浴の日を書く欄があります。私はここにたとえば産後13日目 5月5日と記入しています。世間ではまだまかり通っていないので、家に帰ったらお母さんのお母さんが「本当にお風呂に入って良いって言われたの?」と心配しそうなので、記入した後、私のサインも書くことにしています。はじめは1ヵ月健診で確認してもまだ入浴していないというお母さんが大半でしたが、最近は「サッパリして良かったです」と言ってくれるお母さんが増えています。
その他、上のお子さんがいる場合、その子の受け入れ状態を聞いています。2、3歳の場合が微妙で、なかには「お前なんかママのお腹に帰ってしまえ!」という子もいました。正直に意思表示するのは健康なあかしで、だまってハグするように指導しています。