佐野理事長ブログ カーブ

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第691回 忙酔敬語 彼の浮気と生成AI

 讀賣新聞の「人生案内」で20代の女性が、おつき合いしている彼が浮気していたことを苦にして、生成AIチャットGPTに相談していると投稿していました。相談員の先生は「何の責任も取らないAIの言いなりにならないようにしてくださいね」と注意していましたが、私はAIのどこが悪いのだろうか?と不思議に思いました。

 ちょうどその日の夕方、NHKでメンタルの問題をAIが解決してくれるのか?という特集を放映していました。登場した若い2人の公認心理師・臨床心理士は、「とりあえずは問題はないが、いきづまれば生身の心理師やメンタルクリニックで相談してください」と答えていました。この意見には私も同感で、同じような問題を同日に目にするなんてタイムリーなことだなと思いました。

 AIなんか人間味がないではないかと危惧される方もいるでしょうが、人間味などというものは進化していく過程で選択肢を重ねたすえに獲得されました。学習していけばAIでも人間味は深まります。とんでもないことをインプットされていないかぎりAIの方が無難ではないかと思います。

 チャットGPTの相談にはいろいろなパターンがあり、子供向けにやさしく解説したり、高学歴者用に入りくんだ説明をするので、お気に入りのアイテムを選択できるそうです。

人間相手だとその人の人生観や主観がもろに入ってくるので、いろいろなパターンを聞き出すことは難しいかもしれません。

 当院の例で言うと、カウンセリングは話しているうちに相談者の自然な気づきにつなげるという流れで行っています。心理師が積極的にアレコレ指示することはふつうはありません。AI相手でも、相談者は自分の考えを整理して気づきにつながる可能性はあります。

 心理面接の介入はやや危険がともないます。心理面接の介入とは、相談者が話している内容について治療者が不思議に思うことがあれば確認することです。「失恋したのでリストカットしました」、という女性に対して、精神分析医の成田善弘先生は「どうしてリストカットしたのですか?」と訊ねました。陪席していた若い心理士たちは「成田先生はそんな分かりきったことをなぜ確認するのか?」と不思議に思ったそうです。その女性に対する配慮もあったからでしょう。そこで成田先生は、ふつう失恋したくらいでリストカットまでするか?おかしくないか?その辺のところを不思議に思わないような治療者にかかっては治る病気も治らない、と言いきっています。

 陪席した心理士たちが危惧したように、この質問は女性にとってツライものだったでしょう。相談者のなかには本当は治りたくないと思っている人もいます。そのような人たちは「成田先生にかかっては治ってしまうかもしれない」と逃げてしまうそうです。

 チャットGPTは今のところ、介入するまでの能力はインプットされていないようです。ただ受け身で聞いているだけです。ですから明確な回答は期待できません。その辺だったらまず危険はないでしょう。讀賣新聞の「人生案内」の相談員は「何の責任も取らないAI」と書いていましたが、実際の心理士・心理師もそうそう責任を期待されても困るでしょう。「人生案内」そのものも責任追及をされたと聞いたことはありません。

 実を申すと私は「人生案内」の愛読者です。今回、自分の意見と食い違ったため、つっこみましたが、参考になることもあるので毎日かかさず目をとおしています。