朝方、目を覚ましてスマホを見ると画面が横に流れていました。スマホがいかれたのかな、と思いましたが、やがていかれているのは自分だと気づきました。めまいの原因にはいろいろあります。一番ヤバイのは脳がやられることです。脳がやられるとめまいだけではすみません。激しい頭痛や吐き気や手足のマヒなどがあらわれます。
「これがあの良性突発性頭位めまい症なんだ」と思いいたりました。
「良性」とはやばくないということです。「突発性」とは原因がよく分かっていないということです。「頭位」とは頭の位置を変えることで発症するということです。
でも思いあたることはありました。前日、外来に手のかかる患者さんが大勢受診したり、外来診療が終わったら赤ちゃんがなかなか出てこないので吸引分娩をしたりで、けっこう心身ともに応えました。さらに妙に早くに目覚ざて、その後、二度寝ができないままボーッとした状態で朝をむかえました。これらがまとまって「突発性」となったんですね。
いつもは3.5kmの道のりを歩いて出勤するのですが、道も滑るし無理しないでタクシーを呼びました。医局に着いてもルーチンのトレーニングはやめました。お茶を飲みましたが吐き気がしてもどすところでした。耳の下のくぼみにめまいに効くツボがあるのを思い出して、そこを呼吸にあわせて10回ほど指圧したところ何とか落ちつきました。間もなく厨房から煮魚中心の朝食が届き、ペロリとたいらげました。メデタシメデタシ。
外来ではめまいの患者さんはめすらしくはありません。基本は耳鼻科ですが、それでもパッとしない患者さんが受診されます。タクシャ湯という漢方薬が即効します。保険適応のエキス剤にはないので、四苓湯にタクシャとソウジュツを加えて代用しています。これでもけっこう効きます。タクシャとソウジュツを加えるというワザは漢方熱心な薬局とタッグを組まなければなりません。五苓散を例にしてタクシャ湯を解説します。
五苓散はタクシャ、ソウジュツ(ここまでタクシャ湯)、チョレイ、ブクリョウ(この四つで四苓湯)と水をさばく生薬に、頭痛を取るケイヒ(シナモン)で構成されています。
低気圧のときに頭痛を引き起こす天気病の特効薬でもあります。
私の姪っ子が天気病持ちで、めまいにも悩まされているというので、タクシャ湯もどきを処方したところ、効いたけど死ぬほど不味かったと文句をたれました。天気病に対してはコウジュンというメーカーの五苓散を処方しました。コウジュンの五苓散は他のメーカーよりも生薬の量が多く、なおかつ1回の量は1.5gとコンパクトな優れ物です。当然、シナモンの香りも強くなります。「バナナケーキに入れたいけど良いだろうか?」とメッセージが来たのでOKと返事しました。頭痛に効くケーキができたかな?
頭痛は大したことはないが、何となくめまいが続くという患者さんには苓桂朮甘湯が最適です。五苓散も苓桂朮甘湯もドラッグストアで売っているので験してみればよいでしょう。7日分で効果は実感できます。ただしドラッグストアでは保険が効かないので、やみつきになればクリニックで処方してもらった方が経済的です。
タクシャ湯も四苓湯も五苓散も苓桂朮甘湯も、すべて水をさばく漢方薬(利水剤)に分類されます。苓桂朮甘湯を長期間オファーする患者さんに「しょっぱい物がお好きですか?」と聞くと、たいてい「そのとおりです」と言います。塩分は水分を引き込みめまいにも関与します。日ごろの生活習慣にも気を配ることが大切です。