「おかげさまで汗とむくみは良くなりました。さらに癒やされている感じもします」
防已黄耆湯を飲んだ患者さんが言いました。この患者さんは汗かきで更年期障害と思って受診されました。まだ生理もあるのでホルモン補充療法よりも漢方の方が効きそうでした。患者さんももともと漢方を希望していました。
防已黄耆湯の主力生薬は利水作用のある防已・黄耆・蒼朮です。黄耆には肌を引きしめて汗をとめる作用もあります。3つともそれほど攻撃的な生薬ではありませんが、先人は念のため、大棗・甘草・生姜の3種類の生薬で全体を緩和しました。
「癒やし3兄弟が入っているからですよ」と私は説明しました。癒やし効果は2,3日で現れたそうです。14日分の処方でしたが、希望によりさらに56日分処方しました。
私が癒やし3兄弟に気づいたのは、平胃散という漢方を知ってからです。平胃散は胃もたれに切れ味よく効果を発揮します。主薬は胃もたれの原因となっている消化管の水分をさばく蒼朮です。その他に気分の安定と治水作用をあわせもつ厚朴・陳皮が入っています。そして裏方として大棗・甘草・生姜のラインナップが入っています。
「このラインナップ、どこかで見たことがあるぞ?」
さっそく調べてみました。まずは桂枝湯です。桂枝・芍薬+癒やし3兄弟で構成されています。桂枝湯は穏やかな風邪薬です。これに肩こりを取る葛根と解熱作用のある麻黄を加えるとおなじみの葛根湯になります。葛根湯は比較的強い薬です。
桂枝湯の芍薬をちょっと増やすと桂枝加芍薬湯になり、胃腸の痛みの基本的な方剤となります。女性のための生薬である当帰を加えると当帰建中湯となり、生理痛や胃腸の痛みに幅広く応用できます。
風邪がやや長びいて熱が引けないときには小柴胡湯が効きます。強力な解熱薬である柴胡・黄芩のコンビに吐き気を抑える半夏が入っています。これらの生薬はかなり存在感が強いので癒やし3兄弟だけではささえきれず、人参も入れて食欲を増進させます。結局、小柴胡湯の構成生薬は、柴胡、黄芩、半夏、人参、大棗、甘草、生姜の7種類です。
ところで、日本東洋医学会の会長である三谷和男先生のお父上も漢方に造詣が深く、息子が学生時代に風邪をひいて寝込んだとき、葛根湯と小柴胡湯のエキス剤だけを送ってよこし、「お前はこれで何とかなるはずだ」と言われたそうです。さきほど紹介したように葛根湯も小柴胡湯も強い薬です。確かに三谷先生は体格が立派です。さすがお父様です。
もう1つ癒やし3兄弟の入っている漢方を紹介します。出来物・腫れ物に効く排膿散及湯です。抗炎症作用のある桔梗が主役で枳実・芍薬が補助します。これだけだと攻撃力のみになるので癒やし3兄弟がカバーします。このため副作用の少ない薬となり、釧路で皮膚科を開業している松田先生は「排膿散及湯は人類の未来を救う!」とまで言っています。
大棗は干しナツメ、甘草は甘味料として使われています。生姜はスーパーで売られているショウガです。癒やし3兄弟はすべて食品みたいなものです。
癒やし3兄弟はこのように使いやすいので、その他多くの方剤に含まれています。では癒やし3兄弟だけの処方はあるのか? ありませんが近いのはあります。甘麦大棗湯です。甘草・小麦・大棗で構成されています。女性の悲哀や子供の夜泣きに驚くほど効くことがあります。生姜はピリッと刺激があるので、非常におだやかな小麦に代わっています。