佐野理事長ブログ カーブ

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第678回 忙酔敬語 尾骨痛の治療

 人間の尾骨は4つの骨で構成されていて、そこが痛いからといって死ぬわけではありませんが、痛がる本人にとってはツライものです。たいていは鎮痛薬でよくなりますが妊婦さんはできたら薬は飲みたくないと言います。

 そこで威力を発揮するのが鍼治療です。鍼治療の原則は痛い部位への治療ですが、尾骨の場合は場所が場所だけに身を引かれます。鍼治療には遠方射撃というワザがあり、これでも不思議と威力を発揮します。

 遠方射撃で名声をはくしたのが帯広の吉川正子先生です。吉川先生は「陰陽太極鍼」という疼痛部位と180度反対側の穴に刺さない鍼をほどこして治療していました。はじめて吉川先生のお話しをうかがったとき、「痛い場所に鍼をすればよいのに、何でそんなまどろっこしいことをするのだろう」と不思議に思いました。

 そんなある日、妊娠9ヵ月の妊婦さんが鼠径部が痛いと苦しんでいました。以前だったらそこに鍼をするのですが、さすがに赤ちゃんの頭が近くまで降りて来ているので妊婦さんは厭がりました。そこで陰陽太極鍼のことを思い出しました。でも鼠径部の反対側ってどこなんだろう?見当がつかないので鍼灸師の南雲三枝子先生に電話で相談しました。「肩の後ろがわにあるはずよ、先生だったら分かるから」と言うので、その辺りをさぐると痛がる箇所を見つけました。そこに鍼治療をするとアラ不思議!痛みがサッと引いてしまいました。患者さんは驚きましたが私も驚きました。

 その後、恥骨部痛、下腹部痛など、ふつうは鍼灸治療院では行わない箇所に治療して、その成果を100例集めて香港の中文大学で発表しました。その英文原稿を英文科も卒業している吉川先生に送ったところ、非常に喜んでくださいました。

 陰陽太極鍼を系統的に学んでいない鍼灸師さんも、肛門の治療穴として頭のてっぺんの百会が有効であるということは周知しています。尾骨は肛門のやや後方にあります。陰陽太極の理論にのっとって尾骨痛の治療穴は百会のやや前方に取りました。頭皮は厚いので鍼を刺してもそれほど痛くはありません。これで尾骨痛も解決です。ここで問題なのは頭部には手が生えているのでふつうの鍼でないとダメです。陰陽太極鍼は深く刺す必要はないので、ほとんどが丸いシールに棘みたいな小さな鍼が附いているパイオネックスで何とかなります。頭皮はハゲならパイオネックスでいけますが女性はダメです。

 ところが漢方仲間の札幌白石産科婦人科病院の武田智幸先生は「パイオネックスでも効きますよ」とボソリと言いました。口数の少ない先生なので雄弁には語らなかったため、どこに治療したのだろうと不思議に思い続けました。昨年、目を覚ましたとき突然ひらめきました。坐骨神経痛の患者さんには中府といって乳頭と鎖骨の間にある穴に治療して好成績をあげてきました。左右の坐骨神経を訴える中間地点に尾骨があります。そこで武田先生の見つけた治療穴は胸の真ん中の壇中ではないかと思いいたりました。こうゆうときに限って尾骨痛の患者さんにはなかなか出会えませんでした。そして昨年の暮れ、やっと妊娠14週の患者さんが尾骨が痛いと言ってくれました。壇中のパイオネックスで瞬時に痛みはとれました。3日後も尾骨痛の妊婦さんが来ました。その方は鍼灸師さんで、私のワザに驚きました。この成果を発表すべく、知りあいの鍼灸師さんに問い合わせたところ、新発見らしいことが分かりました。でも本当の発見者は武田先生です。