火曜日と金曜日は1ヵ月健診の日です。赤ちゃんは小児科の笹島先生で、私はお母さんの担当です。たまに笹島先生に言いそびれた赤ちゃんの相談を受けることもあります。たいていは目やにとかオムツかぶれです。目やにには抗菌薬の点眼薬、オムツかぶれには亜鉛華軟膏ときまっていて、これでほぼ100%治っています。ということは何をしなくてもいいのかもしれません。ところが最近、笹島先生は抗菌薬に耐性の結膜炎が出てきたというので、私は自分が常用しているニフラン点眼薬を処方しています。
さて、お母さんです。
はじめてのお母さんには、「赤ちゃんとなかよくできていますか?」と聞いています。「はい、なんとか」という場合はOKです。とてもOKです。人間は類人猿のならいとして学習しないと子育てができません。こぢんまりとした動物園では、赤ちゃんの子育てを見たことがないママさんチンパンジーがいます。赤ちゃんを見てもどのようにあつかっていいのか分からないので育児放棄となり、飼育員の出番となります。その点、像は類人猿なみに知能が高いのですが、すでに子育てのノウハウはインプットされていて、人が手を出さなくても完璧にやっています。今年の8月に丸山動物園で像のタオちゃんが生まれました。タオちゃんは生まれても呼吸をしないでクッタリしていました。飼育員さんたちはヒヤヒヤしましたが、お母さん像は少しもあわてず鼻で刺激したり、前足で砂をかけたりしてタオちゃんを刺激しました。そのかいあってタオちゃんは5分で呼吸をして、まもなく立ち上がることもできました。
赤ちゃんの蘇生方法は母子手帳にも記載していますが、だれも読んでいませんし、読んで「よし、分かった!」と言って実践できる人はいないでしょう。日ごろから訓練していないとダメです。われわれも定期的に練習しているので、うろたえることなく産声を上げない赤ちゃんの蘇生をしていますが、タオちゃんのお母さんはすでにノウハウがインプットされているので、とっさの判断ができるのです。
2人目以上のお母さんに対しては、「上のお子さんたちは赤ちゃんを受け入れてくれていますか?」と聞いています。4歳以上ならほぼ全員赤ちゃんを可愛がってくれますが、2歳くらいだと微妙です。赤ちゃん返りするだけでなく、なかには「お前なんかママのお腹にもどってしまえ!」と叫んだチビちゃんがいました。けっこう具体的な拒否反応で、こっちも笑ってしまいました。そういうときは、「もうお兄ちゃんなんだからしっかりしなさい、と言ってはダメですよ」と言うことにしていますが、これはもう常識みたいです。このお母さんに対しては「黙ってお兄ちゃんを抱っこしてみては?」と提案しました。
作家の丸谷才一さんが、自分の文章に関して好意的ではあるが見当違いな批評をされたので、大先輩の文筆家にどうしたもんだろうか相談したところ、「社会に出れば人間関係は敵か味方かどちらかだ。味方を敵に回したらややこしいことになるので、ここは目をつぶりなさい」と言われました。私はこの説がいたく気に入って、「いいですか、上のお子さんを敵に回してはいけませんよ」と、毎週のようにくり返しています。
昔は、5年以上もあけると、全員一人っ子みたいになるので、年をあけないでお産すべきだと言われていました。しかし、本当は十分にお母さんに甘えさせてから、つぎの子にバトンタッチした方が、家族間の関係性で苦労しなくなるのではないかと思います。